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愛しさと哀しみ 5

「何があったのか教えてくれ、まっまさか……」    まさかお父様とお母様に何か……先ほどから心臓が早鐘を打っている。  これは重々しい不吉の鐘だ。 「うっ……それが箱根からの帰宅途中に山道で……雨に濡れたタイヤがスリップして……」    誰かの声が聞こえてきた。  なんてことだ。やはり……最悪のパターンなのか。 「そっ即死だったと、警察から……電話が」 「うっ嘘だ!そんなっ」 「現地で確認も取れて……」 「そんな……」  『即死』  そのあまりにストレートな言葉に、目の前が真っ暗になる。  だってさっきまでこの部屋に二人ともいらして、お母様が僕のことを久しぶりに抱きしめてくれて……あの温もりはどこへ?   そんな言葉信じられない……この目で確かめないと。 「誰かっ──嘘だと言ってくれ!」  だが辺りを見渡しても、冷たい憐みの目しか返ってこない。  暫く沈黙の時が流れた。  皆どうしたらいいのか分からないようで戸惑っている。  僕自身が一番戸惑っていた。  やがてガヤガヤといつの間に誰が呼んだのか……会社の重役たちが部屋に集まって来た。 (参ったな。よりによってこんな時に) (今日の融資が決裂したからなのか、まさか……) (しっ子供に聞こえるぞ)  聞きなれない不安な内容にますます不安が募り、僕は茫然としたままお父様が使っていた書斎の机に顔を伏せた。  お父様……そんな……僕たちはどうしたら……どうしたらいいのですか!    お母様……雪也はまだ13歳です。これから手術だって控えているのに……こんなショックなことって、あの子に何と告げたらいいのか分かりません。  誰も僕を支えてくれない──  けれども僕は支えないといけない。  お父様との誓いが、今効力を発揮する。  まるでこんな日を遠からずやって来るのを見越したような、二つの誓いを父と交わしていた。  弟の雪也を守る。  この屋敷を後世に残す。  この二つの誓いを、僕は守り通さないといけない。  なんとしてでも──  

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