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愛しさと哀しみ 6
「兄さま。どこぉ……どうしてお隣にいないの? 」
雪也の声が、小さな足音と共に近づいて来る。
それと覆いかぶさるように、両親の声が聴こえてくるようだ。
『柊一、泣いている場合じゃない。弟を守ってくれ、あの子を大人にしてあげてくれ』
『柊一、ごめんなさい。こんなことになるなんて……雪也の手術だけはせめてどうにか……お願いよ』
『家のことを頼んだぞ』
『白薔薇を守って』
両親の無念……心残り……が、思念のように押し寄せてくる。全部、僕が全部受け止めないといけないことなんだ。
僕は涙を拭って立ち上がった。
「兄さま? どうして泣いているの?」
可愛い雪也が背伸びして、僕の目にまだ残る涙を細い指先で拭いてくれた。
「雪也……お前には兄さまがいるから。ずっと傍にいるから安心して」
「なにか……あったの? どうしてこんなに人が集まっているの? なんだか怖いよ」
まだパジャマ姿の雪也は天使のように清らかで、どこまでも守ってあげたくなる庇護欲を掻き立てられる存在だった。
「雪也、よく聞いて欲しい。落ち着いて聞けるか」
「うん……」
「お父様とお母様が……」
ギュッとその薄くて細い肩を抱きしめた。雪也がどこにもいかないようにしっかりと。
「交通事故で……お亡くなりになった」
「えっ……そんな……うっ嘘でしょう? 兄さま、変な冗談言わないで。だって、さっきまでここにいらしたでしょう……」
雪也を抱きしめたまま、真実を告げる。
「本当なんだ」
「いっ……いやぁぁぁ」
悲痛な叫びを、必死に抱きとめた。
「雪也、そんなに興奮してはダメだ! 発作が起きてしまう。兄さまがいるから! お父様とお母様の代わりになるから! 大丈夫。大丈夫だ……」
「に……いさまぁぁ……」
僕の胸に顔を埋め、僕の背中を必死に掴んで、雪也は泣いた。
「大丈夫……大丈夫だ。兄さまがお前を守るから」
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