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愛しいということ 2
その晩は優雅なディナーを、まるで城のようなダイニングホールで、ご馳走になった。
そういえば俺が小さい頃、母が読んでくれた絵本に、こんなシーンがあったよな。
こんなおとぎ話のような世界が、現実にもあるなんて。
無性に誰かに見せてやりたいような、誰かと共有したいような高揚した気持ちになった。そんな相手なんていないのに。
らしくない……柄にもないな。
アーサーと瑠衣が結ばれたのを、この目で見て……それがあまりに穏やかな雰囲気だったから、そんなロマンチックなことを思うのか。
同時に俺の隣には、まだ誰もいないのが寂しくなった。
「今日は俺はもう眠るから、この後は久しぶりに兄弟でゆっくり話すといい」
そう言ってアーサーは、一足先に寝室に入った。
アーサーは俺と瑠衣が異母兄弟だという事を知っているが、いつも分け隔てなく接してくれる。『兄弟』と呼ばれることは滅多にないので、こそばゆい反面、嬉しかった。
「良かったのか」
「うん、僕はいつも、その……」
成る程、この屋敷では瑠衣の存在は公認で、君たちは毎晩同じベッドで休んでいるという事か。
「海里……何かもう少し飲む?」
「じゃあウイスキーを」
「……スコッチウィスキーにしよう。海里も好きだったよね」
「ありがとう」
弟と酒を交わす。
いいものだな。ドイツでの1年、一度も日本には戻らなかった。まぁ呼ばれもしなかったしな。だからなのか、こうやって久しぶりに肉親の情に触れると、しんみりとしてしまう。
どうやら瑠衣の方も同じ気持ちのようだ。
いつもより素直に自分の気持ちを伝えてくれる。
「今日は来てくれて嬉しかった。ここでは日本人と話すことなんて殆どなくてね」
「そうか。でも幸せなんだろう。ここは誰にも邪魔されない空間だ。お前は苦労したから、それでいい」
「でも僕ばかり幸せでいいのか、後ろめたい時もある。お屋敷に残して来たお二人のお子様が気になって」
「あぁ、お前が執事をしていた家のか。病気の雪也くんのことは確かに心配だな」
「……うん」
瑠衣は懐かしそうに目を閉じた。
長い睫が揺れている。
「雪也さまもそうだけど、柊一《しゅういち》さまのことが心配で」
「柊一? 誰だっけ」
「あれっ……会ったことなかったか。雪也さまの10歳年上の兄だよ」
「あぁ話で聞いただけだな。いつも雪也くんが自慢していたお兄さんか」
「うん、彼はね、少し僕に似ていて……僕たちは主従関係を越えた信頼関係を築いている最中だったんだ。柊一さまは弟が病弱だったこともあり、早くに大人にならなくてはいけなくて」
そういう切なさは、俺にも分かる。
早くに大人にならなくてはいけなかった子供か……
それは、俺と瑠衣も同じだ。
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