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愛しいということ 3

 瑠衣はクイッとウイスキーのグラスを傾け、一気に飲み干して、熱い吐息を漏らした。 「なぁ……海里。日本に帰ったら、くれぐれも頼むよ。また雪也さまの主治医になってくれるのだろう。柊一さまの様子も、それとなく聞いて欲しい……」 「あぁ帰国したら、すぐ診察が入っているよ。雪也くんと会うのは1年ぶりか。さぞかし大きくなったろうな。あの子は、まるで小公子のように可愛いらしいよな」 「うん、そうすると柊一さまはもう23歳か。綺麗で優しくて……でも強がりなお子様だった。彼が9歳の時からずっとお傍にいたんだ」  瑠衣は、何度も柊一くんの名前を出した。  よほど気になっているのだろう。 「分かった。お前、少し酔ったな」 「海里……頼むよ」  しなやかでソフト。上質な光沢感のあるコットンの白いシャツ。  胸元のボタンをいくつか留めていないせいか、いつになく寛いだ瑠衣の姿にハッと息をのんだ。  日本人にしては白い肌……細い首筋、彫刻のように浮いた鎖骨……見え隠れする平らな胸元は、内側からの熱によって火照っており、そこに点在するのは、アーサーに落とされた刻印だった。  まるで間接照明の中で灯った、情熱の炎のようだな。  愛の証か──  我が弟ながら……艶めかしいと思う。  日本にいたらこんな無防備な顔や姿、絶対に見せないだろうに。 「はぁ瑠衣が充分幸せなのは分かった。さぁそろそろアーサーの元に戻れよ……目の毒だ」 「海里? 」  瑠衣は気づいていない。  今の自分が、いかに魅力的なのか。    瑠衣をあそこまで変えたのは、アーサーの愛だ。  俺も誰かを深く強く愛して、その誰かを……俺だけの前でしか見せない姿に染め上げたい。 「おやすみ、海里」 「おやすみ、瑠衣」 「明日には日本だね」 「あぁ戻るのが楽しみだ」 「そうか……良かったよ」  瑠衣はアーサーの腕の中に、俺は日本に戻る。  日本で俺は見つけられるのか、俺だけの愛を──  今度こそ、誰かが俺を必要とし、待っていてくれるかもしれない。  まだ誰かも分からない誰かに、俺は恋していく。  まどろみ……やがて暗転。  明日という日に希望を託して──

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