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愛しいということ 13
英国・ノーサンプトンシャー
朝から緑の芝生が見えなくなるほどの霧が……立ち込めていた。
僕はアーサーの書斎で、ロンドンから転送されてくる山のような手紙を開封したりと事務処理に没頭していたはずなのに……
さっきから……モスグリーンのソファにゆったりと座ったアーサーの視線を感じ、意識してしまう。
とても甘く熱い視線だ。
とうとう耐えかねてキッと見つめ返すと、彼はやっと目が合ったとばかりに、微笑んだ。
「ルイ、そろそろいつもの紅茶をいれてくれるか」
「うん」
「それ、いいね」
「……何がですか」
ちょっと背筋を伸ばして聞き返すと
「だいぶ砕けてきたね。もっと俺に甘えて欲しいよ。日中もベッドの中の君みたいに、もう少しフランクに話して欲しいよ」
「……今は仕事中です。執事の仕事を続けさせてもらうのが約束です」
「ふっ、やっぱりつれないな、でもいいよ。ルイが傍にいてくれるだけで、信じられない程、嬉しいから」
「……紅茶を入れますね」
アーサー・グレイ伯爵。
彼の家が所有する茶畑で摘まれた特注の紅茶は一級品だ。僕が日本にいる時もこの味を求めてあれこれ試したが、ここまでの香りのものとは出会えなかった。それでも僕の入れた紅茶が美味しいと、柊一様も雪也様もよく仰ってくださって……懐かしいな。お二人はお元気だろうか。
以前執事をしていた家とはもう一切関わらないことが条件で、ここに雇われているので、聞くことも知ることも出来ないが、やはり気がかりだ。
僕は単身で英国にやってきた。
僕の注ぐゴールデンドリップは、生涯アーサーに注ぐと心に決めたのだ。
「おっと俺はミルクはいれないよ。少し妬けるね。今、誰を想っていた?」
アーサーが僕の背後に立って、耳元で囁いてくる。
手元を見て、つい長年の習慣でミルクをいれようとしていたことに驚いた。
「ミルクティーがお好きだった小さな天使のことですよ」
「ん? 誰のことだ?」
アーサーにだけは、漏らしてしまう僕の心。
「その……とても可愛いお子様たちだったので、少し心配で寂しくなって」
「……そうか。ごめんよ、君を無理矢理ここに連れてきてしまって」
「いや、そうじゃない。僕だって……ここに来たかったから同罪だ。彼らのこと、僕の代わりに海里に見守ってもらえればいいのだが」
「そうか……ルイ。すまなかったな。そして、ありがとう。俺だけのルイになってくれて」
「アーサー……」
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