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誰か僕を 2
「雪也、行ってくるよ。どんなに遅くなってもちゃんと今日中に戻ってくるから、心配しないで」
「……はい、お気をつけて」
「夕食はお鍋にポトフを作ってあるから、先に食べてね」
「分かりました」
仕事に出かける兄さまの背中が見えなくなるまで、玄関のポーチで見送った。
「兄さま、大丈夫かな……ひとりで何もかも背負い込んでしまっているのでは。でも兄さまはひとりじゃないよ。僕だって、それに、海里先生だって付いています」
先日、海里先生が兄さまに綺麗な色の毛布を貸してくれた。
あの時の先生の優しい眼差しが忘れられない。
海里先生はきっと僕たちの味方をしてくださる。
兄さまにはまだ話せないけれども、きっと先生は僕たちが本当に困った時には、助けてくださる。
****
「雪也くん、次は君の診察だよ」
「先生! 」
先日の診療時……海里先生はわざわざ診察室から出て来て、兄さまの様子を残念そうに見つめた。
小さなため息と共に──
「やれやれ君のお兄さんは今日も眠ってしまったのかい? 一度位は起きている所を見たいものだよ」
「……あっ、いつもすみません」
「いや、それより雪也くん特別枠で診てあげられなくてごめんな。他の人の目が厳しくてね。さぁこの毛布をお兄さんにかけてあげなさい」
「え……いいんですか」
「あぁ顔色も悪いし、とても寒そうだ」
海里先生が柊一兄さまのことを慈愛に満ちた目で見てくれたことが嬉しくて、ほっとした。いつもひとりで奮闘している兄さまに心強い味方が出来た気分だった。
「海里先生……ありがとうございます、僕……」
「雪也くん、あまりひとりで悩むな。もしも困ったことがあったら、俺を頼ってくれ」
「え……でも」
「君はまだ幼い。君の亡くなられたお母さまからも頼まれていたし、それに……」
海里先生の眼は、もう一度ゆっくりと眠っている柊一兄さまへと向けられた。それは今まで見たことがない程、深い眼差しだった。
先生の瞳に映る兄さまは、愛情というベールで守られているように見えた。
兄さま……兄さま、起きて──
先生の瞳を、早く見て下さい。
そう願うほどに!
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