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誰か僕を 6

「なぁ教えてくれよ。逢いたくて溜まらない人に……どうしても逢えない時って、どうしたらいい?」 「それはこの前話していた……海里が愛する人の事なんだね」  瑠衣の声は、どこまでも優しかった。  清らかな泉のような瑠衣の存在に、こんなにも癒されるなんて。 「そうなんだ。それで……何だか心配で」  今までにない弱音を吐いた自覚はある。  でも……瑠衣だからだ。ずっと影のように寄り添ってくれた瑠衣になら話せた。今まで誰にも見せたことのない俺の姿を。 「……その人は海里の近くに今いるの? そして君は逢いに行ける立場に?」 「あぁそう遠くない場所にいる。すぐにでも行ける距離だ。なぁ俺はどうしたらいい?」 「ふっ……クールな海里にしては珍しいことを言うんだね。それは単純で簡単なことだよ。行くといい。僕とアーサーのように海を越えないと会えないわけでないし、ふたりを隔てる柵《しがらみ》もないのなら」 「そうだ、確かにそうだ」 「後悔してからでは遅いよ。もしかしたらその人も君を待っているかもしれないよ」 「そうか、ありがとう!」  アーサーの後悔、瑠衣の事情。  それを長い年月見守ったくせに、俺は何も学んでいなかった。  我が身に降りかかると、こうも違うのか。  同時に瑠衣の我慢とアーサーの情熱に、改めて感服だ。 「君たちには適わないな」 「恋は勝ち負けじゃないよ。さぁ動くのは君だよ。君に初めて芽生えた『真実の恋』……僕もイギリスから応援するよ。どうか後悔のないように。何かあってからは遅いのだから」 「分かった。瑠衣が言うと説得力あるな。勇気が出たよ」 「……僕も君の役に立つんだね。いつも僕の前を颯爽と歩んでいた海里を、ここまで骨抜きにした相手が気になるよ」 「それは……また、いずれな」    時が来たら話すよ。瑠衣とアーサーにだけは話したい。  そうだ! 会えないなら、俺から訪ねてみよう。  雪也くんが何か事情があって来られないのなら、俺が往診すればいい。そして柊一の現在の様子も知ろう。君たちは住む、お屋敷の様子も伺いたいし。  考えれば考えるほど知りたい欲求が溢れてくる。  俺は……今までずっと、ただ立っているだけで人が寄って来た。ちやほやされる日常が当たり前だった。  だがそうじゃない。俺が望んでいたのは……  俺から動きたい……知りたい衝動に駆られる程の人と出会ってみたかった。    それが今だと、瑠衣に言われて初めて気が付いた。   柊一と雪也くんの元に、俺から近づこう!

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