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誰か僕を 7

 「兄さま、まだかな……」  さっきからずっと窓の外を見ているのに、まだ兄さまは帰宅しない。  部屋の中を振り返ると、電気を全部消しているので真っ暗だ。  暗闇は怖い──    でも電気代がもったいないから、我慢しなくちゃ。  最近の僕は日中はひとりで家で過ごし、夜になれば兄さまが用意してくださった夕食を食べ、あとは二階の僕の部屋で兄さまの帰りを待っている。  ひたすら……そんな生活を続けている。  兄さまは最近とても疲れている。  僕に心配かけまいと教えてくれないが、予期せぬ借金が増えたせいで、僕の診察やお薬代すらも厳しい状況なのだ。  だから僕は学校に行くのをやめて身体に負担をかけないよう心掛け、家に閉じこもって大人しく過ごしている。 「海里先生……予約をすっぽかしてしまって、ごめんなさい」    兄さまの余裕がどんどん無くなっていることが、とても気がかりだし、僕に出来ることを探しているのに見つからなくて……  もどかしい……  どうして僕はこんなに躰が弱くて、兄さまより10歳も年下に生まれたのだろう。  僕がもっと丈夫で、もっと兄さまと歳が近かったら、ふたりで協力して働けたのに。  兄さまばかりに負担をかけて……ごめんなさい。  玄関の街灯と夜空の月だけが、僕にとっての灯りだった。  もうこのお屋敷には誰もいない。絶えず大勢の使用人がいて、何でもやってもらっていた時代は、今となっては夢の世界だ。  今宵の月は綺麗なカーブを描く三日月だった。  あの空の向こうにお父様とお母様はいらっしゃるのかな。最後に交わした会話は何だったろう。『いってらっしゃい……』だったかな。三日月を見ていると、お母様の美しい微笑みを思い出す。  すると、ギィ……と門が開く音が風に乗って聴こえた。 「あ……兄さまだ!」  ワクワクした気持ちで外を覗くと、お屋敷の正門から玄関までのアプローチ……タイル敷きの道を歩くコツコツとした足音が聞こてきた。 「あれ?」  ところが、伸びてくる影は、兄さまのものではなかった。  誰だろう?  必死に目を凝らすと、驚いたことに僕の主治医の海里先生が立っていた。 「海里先生! どうして……」 「やぁ雪也くん」  先生は薄い色のスーツ姿で、颯爽と歩いていた。  わ……先生、外国の騎士みたいにカッコいい!  でも、どうして僕の家に? 「少しいいかな?」 「あっはい! 今、下に行きます」

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