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誰か僕を 10

「なぁ白薔薇の手入れって難しいのか」 「びっくりした。一体どういう風の吹き回しですか。海里さんがそんなこと言うなんて」  俺の屋敷の庭師に声を掛けると、目を丸くされた。 「いや……その、白薔薇が綺麗に咲きそうな庭があるのに、手入れが行き届いていないのが勿体なくてな」 「へぇ庭師がいないんですかね」 「たぶん、そうだ」 「オレが行きましょうか」 「いや、それじゃ意味がない」 「ふぅんまぁいいですよ。コツを教えましょうか」 「頼む!」  庭師のテツは俺と歳も近く、物分かりのいい奴だ。 「庭師がいないとなると肥料が足りてないのかもしれませんね。それに冬剪定もしていないのかも」 「なんだか分からないが、必要なことを手っ取り早く教えてくれ。その冬剪定って何だ?」 「冬剪定は樹形を整えるのと株を若返らせるために行ないます。バラの生育が停滞する冬にしか出来ない作業ですよ」 「ふうん……冬は何もしてないと思う。だが、それをしないと咲かないのか」 「そういうわけではないです。持って生まれた生命力が植物にはありますからね。この時期からできることは、病害虫防と肥料と水遣りですかね」 「分かった、もう少し詳しく! 」  テツにあれこれ教えてもらい、次の休みに肥料を持って再び雪也くんの屋敷に向かった。今日は日曜日なので、柊一に会えるかもしれないという淡い期待もあった。 「わぁ海里先生、本当に薔薇のお手入れに?」 「あぁ約束したからね」    ところが甘い笑顔で迎えてくれたのは雪也くんだけだった。  がっかりしてしまったが、雪也くんに悟られるわけにはいかない。  まったく色恋に手慣れていたはずの俺が、こんなにも必死になるなんて。  そもそも柊一はまだ俺の存在自体を知らないというのに。    俺ばかり恋心を募らせて──どうしたら君に気づいてもらえるのか分からなくてもどかしい。それでも君の役に少しでも立ちたくて、こうやって薔薇の手入れをしに参上したんだ。 「そうだ、これは雪也くんの薬だよ」  薬を手渡すと、雪也くんは沈んだ面持ちになってしまった。 「どうした?」 「あの……今月もお薬代が」 「あぁそれは気にするな。俺からの贈り物だ」 「でも……」 「ふっそんな顔するな。俺もまぁ多少の下心もあってのことだ」 「え!あっ……ふふっ」  何てことだ。つい口が滑ってしまった。  だが雪也くんの反応……  もしかしたらもう……気づいているのかもしれない。  俺の柊一への恋心。男同士なんてと毛嫌いせずに温かい目で見守ってくれるなんて、本当に天使のような子だ。 「先生、あの……先生が来てくれた日。兄さまは先生が座っていたソファでとても気持ち良さそうに朝まで眠っていましたよ。久しぶりにいい夢をみたと微笑んで」 「そうか。で、俺のことは?」 「あ……そのまま仕事に行ってしまったので話す暇がなくて」 「そうか……」  まったく、一喜一憂だな。  どうやったら君に会える?  俺はこんなに恋愛下手だったのか。  強引に近づいて、いつものように恋の駆け引きをしたらいい。    以前の俺だったら安易にそう考えたかもしれない。  だが……ひたすらに弟と屋敷のために奮闘する君の自尊心すらも守ってあげたいので、下手に近寄れないでいる。  中庭を進むと大きなアーチが見えた。  残念ながらそこには薔薇が一輪も咲いていなかった。だがとても雰囲気のいい場所で、屋敷のちょうど真ん中、四方八方が見渡せるロケーション。このアーチに白薔薇が咲き乱れたら、さぞかし美しいだろう。 「あ、ここはとっておきの場所で……」 「そうなのか」 「実は母が父からプロポーズされた場所なんです」 「そうなのか……」 「白薔薇が満開の時は本当に美しくて」 「なるほど、満開の時の写真はあるか」 「あります!」 「よかったら、それを貸してくれ」  きっと柊一が喜ぶ、そう直感していた。    好きな人がいる。  その人に振り返ってもらいたいと願う気持ちが、こんなにも俺を変えるなんて。  俺は今までと違う──  君のために、もっともっと……変わっていきたい。  

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