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誰か僕を 11
柊一と会うことは叶わなかったが、雪也くんから良い話も聞けたし、何より薔薇の手入れが、思いの外楽しかった。
今まで人任せで庭になんて興味がなかったのに、柊一が守る屋敷の庭園《ガーデン》は、俺を魅了した。
だからなのか……雪也くんが教えてくれた両親のプロポーズのアーチに、また美しい花を咲かせてやりたくなった。だが素人の俺にはどうしたらいいのか分からないので、アーチの写真を1枚借りて来た。
何より雪也くんが渡してくれた写真には柊一が写っていた。
君はなかなか気が利くな……この写真の中の柊一は今の雪也くんと同じくらいの歳だろうか。小公子みたいに品があって可愛らしい。本当に君たち兄弟はよく似ているな。
現在の柊一。
まだ寝顔しか見たことがないなんて、本当に俺としたことが奥手というか、どうしてこんなにタイミングが合わないのか恨みたくなるよ。
早く俺を見て欲しいのに、叶わないのがもどかしい。
片思いなのか……これは。
そんなまどろっこしい恋なんて、したことがない。
いや……そもそも今までの経験も本当の恋愛といえるのか。どこかゲームのような余興のような、その場の甘い酒のような逢瀬だった。
柊一を知ってから……今までのことが無意味に思えてくる。
そして今を懸命に生きる柊一のために、何かをしたい欲求にかられている。
「おい、テツ。教えてくれよ」
自宅に戻るなり、また庭師のテツを掴まえて話しかけた。
「この花は何というのか」
「また庭の話ですか。海里さんをそこまで夢中にさせる姫が気になりますねぇ」
「姫? 俺がいつそんなこと言った?」
「顔に出ていますよ。どうしたんですか、いつものポーカーフェイスが台無しですよ。あぁスーツに泥をつけて。いいですか、庭仕事の時はそんな姿で行くものじゃありません」
「はは、まぁだが、これが俺らしいだろう。それよりこの写真のアーチに咲いているのも薔薇なのか」
テツはじっと写真を見つめた。
「あぁこれはランドスケープですね。えぇ薔薇の一種ですよ」
「ランドスケープ? 」
「別名プリンセススノーと言って、愛らしく優しい白いミニつる薔薇ですよ。沢山の花が咲くと、まるでベールをまとっているようなイメージになって綺麗で……まぁ庭園の演出には欠かせない品種で、この写真のようにアーチによく合いますね」
『プリンセススノー』か、まさに柊一にぴったりだ。
「手入れの仕方を、早く教えてくれ!」
庭師のテツにレクチャーを受けていると、2階のテラスから長兄に呼ばれた。
兄は俺より五歳上で、今はホテルで専務取締役に就いている。
実質この家の跡取り息子だ。
「海里、そこで一体何をしている? 今日は休みなのか」
「えぇ土日は休みですよ」
「実はお前にホテルのことで頼みたいことがあって。すぐに書斎に来てくれ」
ホテルのこと?
都内の老舗ホテルを経営しているのが俺の家だ。父が社長、兄が専務取締役だ。
医者の道に逸れた俺には関係ない世界なのに、一体何だろう?
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