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誰か僕を 15
次の土曜日の夜──
僕は意を決してクローゼットの中から薄い鼠色の一張羅の三つ揃えスーツを選んだ。両親が健在の頃、成人の祝いに購入してもらった一級品だ。これならどんな場所であろうと恥ずかしくないはずだ。
ホテルの受付で半信半疑に招待状を差し出すと、出席者名簿に『冬郷柊一《とうごうしゅういち》』と、僕の名が確かにあった。
やはり現実なのだ。では、この招待状の意図は……
入り口でグラスシャンパンを受け取り、おそるおそる会場へ足を踏み入れてみた。会場には女性もいたが圧倒的に男性が多かった。僕と同年代の青年から上は初老の男性まで様々だ。居心地の悪い視線の意図が分からないまま、全く知り合いがいない会場を当てもなく彷徨った。
「……なんだろう?」
僕へ向けられた視線に、はっとした。あっ……まただ。まるで値踏みされるように見られている。身体中に張り付く不躾な視線に居たたまれなくなり、窓際のカーテンの隅に紛れよう歩き出した時だった。
「やぁ柊一くん、ちゃんと来てくれたんだね。いかがかな、このセレブパーティーの居心地は」
はっとして振り向くと中年の男性が立っていた。
初対面の人物だった。
この人が僕に招待状を送ったのだろうか。
「あの、何故、僕の名を?」
「ははっ君のことはよく知っているよ。あの冬郷家のご令息だったのに、今は会社を畳んで神田の出版社にしがなくお勤めとね」
相手は見知らぬ男性のはずなのに、僕の素性がばれているのが気持ち悪くて、その場を去ろうとしたら腕をグイッと掴まれた。
「まぁまぁ少し話そうか。君の弟さんは重い心臓病だとか」
「……どうしてそれを?」
「君は今、お金に困っているそうだね。そう怯えなくてもいい。悪いようにはしないよ。私は医師だから、もっといい病院も紹介できるし、手術代も援助してあげよう」
「……見ず知らずの人が、どうして?」
「私が君のパトロンになってあげよう。ただし欲しいものがあってな」
「……何を……ですか」
「ははっ君は純真だな、世の中の仕組みを知らないのか」
それが分からない程……僕は、初心ではない。
この時点で、会場に男性が圧倒的に多かった理由の真意と、さっきから僕が値踏みされていた事を、はっきりと理解した。
心の奥底でもしかして親切な紳士と出会えれば、少しお金を融資してくれるかもしれない。そうすれば雪也の治療費の捻出や洋館の維持も出来る。
そんな浅はかな甘い考えを持ってこのパーティーにやってきたことを認めよう。
だが現実は違った。握り締められた汗ばんだ手に、ぞくりと粟立つ。
やはりそんな甘い話はない。
融資には代償として躰が必要なのだ。
この前連れ込まれた同伴喫茶の存在を嫌でも思い出す。
男同士でも出来ると……そういう世界があると。
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