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誰か僕を 16
注意・地雷ありの方は回避してください。
切ない展開ですが、この後のハッピーエンドを目指しております。
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「さぁ向こうで二人きりになろう。想像通り、間近で見る君は美しいな」
全身を舐めるような視線に震えた。
早くこの手を振り解いて逃げないと。
そう思うのに……僕が我慢してこの男に躰を明け渡せば、弟の命が救えるかもしれない。そんな信じられない考えが芽生えて、抵抗する気持ちが萎えてしまった。
「くくくっ、そうそう、いい子にしていれば援助は惜しまないよ」
「うっ……」
パーティー会場のカーテンの陰で男の手が僕の腰を撫でてくる。馴れ馴れしく下半身がくっつく程きつく抱きしめてくる。
その執拗な動きにゾクリと背筋が凍った。
「……や……めて下さい」
「まずは一晩でいい。いい子にしていれば手術代が一度に手に入るよ。少し我慢するだけだよ。さぁこの赤ワインを飲んでご覧。君は初心だから躰が強ばっているじゃないか。少し緊張を解そう」
渡された深紅のワインの底から怪しげな気泡が浮いていた。
きつく閉じた唇をこじ開けるようと、ざらついた太い指が撫でてくる。
腰を撫で回す手の平は布越しに僕のヒップにまで達していた。
「ふむ、桃のようにいいカタチだな。ほらグラスをちゃんと持って」
震える手にグラスを握らされる。
彼の指先は僕のスーツの隙間からワイシャツの釦《ボタン》を弄り出していた。
さらにもう一歩カーテンの奥へと連れ込まれる。
ここは死角だ、ますます闇に紛れてしまう。
どうして僕は逃げられないのか。
このままでは身を堕とすことになってしまうのに。でも僕が一晩我慢すれば、雪也の命を繋ぎ止められるのなら……
考えがまとまらないうちに、見ず知らずの男に翻弄されていく。
恐怖と緊張のあまり抵抗も出来ず言葉も発せられなくなっていた。
無理やりに唇を手でこじ開けらワインを飲むように勧められる。同時に男の指先が釦をふたつほど外し無遠慮に侵入してきた。
「なっ」
「静かにしなさい。ここで騒いだらいい笑い者だよ。冬郷家のご当主が。いいかい? これは味見だよ。買う前には試食が必要だろう」
「うっ……」
「うん、いいね。吸い付くように滑らかな肌だ。ここの感度はどうかな?」
中年男の指が僕の胸の突起に直接触れた時……激しく動揺した。
やっぱり僕には到底無理だ!
「やっ」
更にその指先で胸の尖りをぎゅっと抓られ、引っ張られた。
「ひっ……」
経験したことのない感覚と痛みに慄き、大きく悲鳴をあげそうになった。
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