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誰か僕を 18 

 雪也くんからの電話を受けて、俺は慌ててスーツのジャケットを羽織り、階段を駆け下り玄関へ向かった。   「すぐに運転手を! いや俺が運転するから、車を回してくれ!」 「かっ畏まりました」  玄関のポーチに配車された車に飛び乗った。  行先はホテルオーヤマ。    柊一の向かったというパーティーはまさか……いや、まだ分からない。だが先日の兄から受けた話が、すぐに頭を過った。  先日のことだ……長兄に呼び出されたのは。 『兄貴が俺に用ってなんですか。珍しいですね』 『あぁ休みの日に悪いが、少し手伝って欲しい懸案事項があってな。お前は医師である前に、我がホテルグループの息子だろう』 『一体何です?』 『実は……』  兄からは1枚の紙を受け取った。 『お前に調査してもらいたい案件だ。少しでも怪しいと思ったらすぐに知らせろ』  あれから俺は父が経営するホテルの宴会場に招待客として紛れ、ある調査をしている。  連日連夜催される煌びやかな社交界のパーティー。  名だたる政界の有名人がひしめき合う世界。  一張羅のスーツに、上品で上質なドレス姿。  どこに行っても同じ光景に見えて区別がつかない。  皆……偽善者のような仮面を被っているようにも見える。  車を停め、兄からもらったリストを確認すると…… 「あった!」  さっき雪也くんから教えてもらった医療関係のパーティーが、確かに菊の間で催されている。  医師なら誰でも知っている日本でも有数の医療財団だ。  まさか、ここに限って……いや、真実は分からない。  表向きは誰にも分からないように仕組まれていると兄は言っていた。  隠した尻尾を掴まえろと。    とにかく向かおう!   ****  招待客としてのダミーの招待状は、事前に兄から預かっていた。  妙に厳重な身元チェックを受けて会場内に入ると、大勢の男女がひしめきあい楽しそうに歓談していた。医師特有の臭いがするな。招待客のメインは医療関係で間違いなさそうだ。中には女性同士や夫婦同伴の人もおり一見、普通のパーティーで何の問題ないように見える。  200人? いやもっとか。かなり大規模なパーティーだ。  俺は目を凝らして、必死に探した。  そんな中、会場内を慎重に歩く君の姿をようやく見つけた!  柊一。  明らかに場違いだ。  気品のある横顔、ピンと伸びた背すじ。  漆黒の黒髪は濡れたように艶めき、色白の涼しげな肌にしっくりと馴染んでいた。  ほっそりとした身体に凛とした空気を纏い、パーティー客の視線を器用にすり抜けて行く。  初めて動く君を見た。  その何かを覚悟したような凜とした佇まいから、目が離せない。  なんだって君は、こんな場違いな場所に来てしまったのか。  君は……このパーティーの意図を知っているのか。      

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