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光 1
悲痛な悲鳴をあげながら、暗闇に手を伸ばした。
誰かにすがる思いで……必死に!
その次の瞬間ドアの方から眩い光が射し込み、同時に鈍い音がして、僕に馬乗りに跨がっていた男がふっと視界から消え、躰が突然解放され軽くなった。
「うっ……」
あまりの恐怖に声が出ない状態だった。
必死に伸ばしていた僕の手を、誰かが優しく握り返してくれた。
「大丈夫だ、怖くないよ」
優しく耳元で囁いてくれると、安堵の気持ちが込み上げてきた。
僕は助かったのか。
誰かが僕を助けてくれたのか。
僕は震える手を伸ばし、小さな子供のようにしがみついていてしまった。
「怖い……もう駄目だと……」
「俺が守るから、大丈夫だ」
守る?
……守ってもらえるのか。この状況から僕を。
「おいっお前、何すんだっ! 勝手に人の部屋に入って来て!うわっ! 」
男性の怒鳴り声と同時に、ぱっと天井の照明がついた。
茫然と見上げれば……
ホテルの制服姿の男性数名が僕を襲った男性を羽交い絞めにしていた。
そして僕は淡いスーツ姿の男性に支えられるように抱かれていた。
スーツ姿の男性と、僕を襲った中年男は顔見知りなのか……
「先生っ、これは犯罪ですよ」
「何だと? この青年は私が出版社で見初めて招待した客だ。合意の上なのに邪魔をすんな」
「先生……よく見てください。俺のことは、よくご存じでしょう」
「あっ君は……このホテルの……」
「俺の大事なお客さまなんですよ。この人は……」
青年の顔を見た途端、気まずそうに中年の男性医師は顔を背けた。
「早く連れ出せ! そしてすぐに支配人に連絡を!」
凜々しい声が響く。
中年男はそのまま黒服の男性に両脇を固められ、連れ出されていった。
部屋には僕と彼だけが残され、気まずい状態だ。
でもこの人は少しも怖くない。
「さぁこれを」
彼は僕の乱れた服装を隠すために、自分のスーツのジャケットを脱いで、かけてくれた。
「大丈夫か。怖かったろう」
「あの……」
「君は本当に危なっかしいな。とにかく間に合ってよかった」
彼のことを落ち着いて見ると、どこか日本人離れした顔つきで背の高い美丈夫だった。明るい色の髪は男性にしては長く白系のスーツがよく似合っていた。
僕よりずっと年上らしく、ぐっと大人の余裕の笑みを浮かべている。それでいて、どこかで会ったような懐かしい雰囲気を漂わせていた。
あ……雪也が幼い頃によく読んであげたあの外国の絵本の挿絵だ。
悪い魔女によって捕らわれた姫を助け出すハンサムで勇敢な青年の絵をふいに思い出し赤面してしまった。
今、僕は一体何を想像した?
いい歳してそれはないだろう。しかもこんな状況で。
「あの……あなたは?」
「俺は森宮海里《もりみや かいり》だ」
「……なんで僕のことを? それに……なんでここを」
「おっと、助けてあげたのに質問攻めだね。とにかくここを出ようか。あのパーティーは表向きはセレブ集まりのようだが、そうじゃない輩が紛れていることは分かったろう?」
「うっ……」
やっぱり……最初から全部見られていたのか。
会場での醜態も客室で男に犯されそうになっていたのも、何もかも見られたと思うと、恥ずかしくて消え入りたい気分に陥って、キュッと唇を噛んでしまった。
彼はまるで魔法のように僕のサイズのシャツと上着を手際よく用意してくれた。
スーツは乱暴に脱がされたせいで肩の縫い目が綻びていた。
両親の残してくれた大切なスーツだったのにと肩を落としてしまったが、おぞましい記憶が残るスーツから着替えることによって、ようやく一息つけた。
大事なスーツは失ったが……
僕の貞操は守られた。
それは……すべて今、目の前にいる男性のお陰だ。
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