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希望の星 4

 海里先生が去ってから、しばらく眠ってしまったようだ。  ふと寂しい視線を感じて目を覚ますと、兄さまが暗く思い詰めた表情で枕元に立っていた。 「あっ……兄さま」 「雪也、起きたのか。この病院の屋上からは……星が綺麗に見えるよ」  何かを諦めたような疲れた目をしていたので、思わず先に謝ってしまった。 「兄さま、ごめんなさい。僕……具合が悪いことをずっと黙っていて」 「いいんだ。言えなかったのは僕の不甲斐なさからだ。それより雪也はお父様やお母様に会いたくない?」 「えっ会えるの?」  一瞬兄さまが何を言っているのか理解できなかった。  それでも両親に会えるというのは甘い誘い文句だった。だって……夢でもいいから会いたい人だもの。 「じゃあ一緒に屋上に行こう」 「嬉しいです!」  誘われて病院の屋上に出ると、空気が澄んで気持ちよかった。  病室のように消毒液の匂いがしないのが嬉しくて、僕は思いっきり深呼吸した。  もう……心臓も肺も痛くない。  それからお父さまやお母さまがいらっしゃる満天の星を掴みたくて、両手を思いっきり空へと伸ばした。 「うわぁ星が一面ですね。いつもは兄さまが夜風は身体に悪いからと外に出して下さらないのに、今日はどうしたのですか」 「雪也……」 「はい?」 「兄さまと一緒に……いこう」 「え?」  兄さまの突然の言葉によって、世界は色を失った。  自分の視界が、どんよりと曇ってしまった。  それは一緒に……  逝こうと誘っているの?  まさかそんなっ、兄さまがそんな考えを持つなんて。  あぁ……全部、僕のせいだ。  気高かった兄さまをこんなにしたのは、心臓が悪い僕のせいだ! 「だっ駄目です! 兄さまがそんなこと。僕は自分が長く生きられないこと位知っています。だけど……そのために兄さままで犠牲になるなんて!」 「もう、いいんだ。雪也をひとりで逝かしたくない。ならばいっそ今!」 「兄さまっ」 「さぁ」  兄さまに無理矢理抱えられ、手すりを超えようとしている。  何てことを……兄さまが自ら死を選ぶなんて!   今の兄さまは、どこまでも絶望している。  あぁ早く伝えないと、兄さまを好いている人がいることを! 「兄さま……駄目ですっ! 嫌!」  僕は必死に叫んだ。  兄さまは一瞬意外そうな顔をしたが迷いを断ち切るかのように、僕を抱える力を更に強くした。  もう少しで僕達の身体は手すりを超えてしまう。 「……雪也……いいんだ。僕にはそんな人はいないのだから……もう……疲れた」  僕は逆さまになる。  視界には新緑が飛び込んでくる。  涙が逆さまに零れ落ちていく──  怖くて怖くて……  喉が震える……  でも伝えないと! 「その人は兄さまの傍にいます! 今日だってちゃんと助けてくれました!」

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