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希望の星 6
「あ……なぜ……?」
訳が分からない……困惑してしまう。
「兄さま、やっと海里先生と知り合えましたね。僕は兄さまよりずっと前から知り合いなんです」
「何だって……いつ知り合ったんだ? 僕は今日が初めてなのに、一体どういうこと?」
「だって海里さんは、僕の先生だから」
「……え?」
「最初の発作からずっと僕の主治医の先生なんです」
「そんな……」
「海里先生こそが、兄さまを救ったヒーローで王子様です」
一気に脱力してしまった。
そう言えば僕はいつも待合室で眠ってしまって、雪也の主治医の先生の名前すら知らなかった。
本当にこの人が?
「そんな……だって、あなたは……さっきはホテルの息子だって」
「あーまぁそれは、俺は次男坊で、本業は医師だ」
「兄さまってば……お母さまが亡くなってから何度も一緒に通院したのに、本当に気が付かなかったのですね」
「ごめん。いつもバタバタしていて、その……よく見ていなかった」
病院へは付き添ったが、医師の顔を気にかける余裕がなかった。
借金の返済に追われ仕事に追われ、頭が一杯だったから。
「先生はずっと前から兄さまを見つめていたのに、全く気づいていなかったのですね。先生は僕が病院に行けなくなったのを心配し、何度か訪ねて下さって……その時も兄さま帰りをずっと待っていたから、流石に先生の兄さまへの想いに気付いて……」
「なんだって……」
そんなこと知らない、聞いてない。
彼を見つめると、少しきまり悪そうに笑っていた。
「出会いのきかっけを探っていたが、君はいつも帰りが遅くて会えなかった。なのに、まさかあのパーティーで会えるとは。俺も兄に頼まれて少し前から休日ホテルで催されるパーティーの監視をしていた。そこにまさか君が現れるなんて……まったく無茶な真似を」
「だって僕は……もう、どうしたらいいのか分からなくて……」
「なぁ俺を少しは頼ってくれないか。君のこと、守らせて欲しい。弟さんの許可はもうもらっているよ」
僕にとって森宮さんは『希望の星』のような人だ。
そんな人が僕を求め……守ってくれるのか。
それってどういう意味なのか。
もしかして……
「あの……それって……まさか」
「つまり君が好きなんだ。ずっと追いかけていた。一目惚れから始まったが、知れば知るほど好きになった。君がひとりで頑張っている姿をずっと応援していた」
「兄さま……僕もそれを願っていました。お二人を応援しています。海里先生は頼り甲斐もあって大好きです。だから兄さまも少し肩の荷を下ろして欲しいです。今まで何もかも押し付けて、ごめんなさい」
「雪也……」
小さくて頼りなかったはずの弟が、急に大人びて感じた。
つまり僕は、僕自身も弟も、白薔薇の洋館も……捨てなくていいのか。
僕のことをこんなにも真剣に考えてくれる彼と……未来を歩む道、そんな道があったなんて!
「俺と付き合ってくれないか」
こんな展開信じられない。
まるで幼い雪也に読んであげた、おとぎ話のようだ。
「うっ……僕もあなたのこと、本当は今日助けてもらった時から惹かれていました」
自分の心に素直になった。
本当はあの危機を助けてくれた時から、僕も森宮さんのことが気になって仕方がなかった。
何故か懐かしく心落ち着く人。
そんな存在は初めてだったから。
幼い頃から密に大切にしてきた事がある。
僕にもいつか素敵な出会いがあると信じる心。
それはきっとある日突然、おとぎ話のようにやってくると心の奥底で願っていた。
それが今、叶う──
荒廃した中庭。
それでも白薔薇だけは枯れずに、逞しく成長し、美しく咲き誇っていた。
その意味を、今日僕は知った。
白薔薇の花言葉は『純潔』だ。
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