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淡い恋が生まれる 3
温かいミルクティーを口にした途端、柊一の瞳から涙がぽろっと零れたので焦ってしまった。
そう言えば、さっきからずっと泣きそうな顔をしていた。
「……ホッとしたんだね」
あまりの切なさに、君の横に座って肩を励ますように抱いてやると、その瞬間に涙がまた一筋流れた。
柊一は自分の涙に驚いたように顔を上げて、そのまま俺をじっと覗き込むように見つめてくれた。
その瞳の中に確かに俺が映っていたので、安堵した。
「さっき俺が言ったこと、覚えているか」
「はい、もちろん……覚えています」
「よかった」
指をそっと伸ばし涙を拭き取ってやるが、涙の雨は止まらない。君をこれ以上泣かすつもりはないのに……俺の方もオロオロしてしまうよ。
「あぁ、もう泣くな」
「ですが……うっう」
あまり君を驚かせたくないが、肩を抱く手に力を入れた。
笑って欲しい……君の笑顔を見てみたい。
「君はもうひとりではないよ。さぁこれをかけて」
膝にあの勿忘草色のブランケットをかけてやると、柊一も覚えているようで「好きな色でした」と言ってくれた。
ブランケットに対しての言葉だが、柊一の唇がゆっくり動き「好き」と発音するのを見ていると、何ともいえない甘酸っぱい気持ちが込み上げてきた。
俺にも、そうやって愛の言葉をはっきりと告げて欲しい。
そのための努力は惜しまないつもりだ。
俺の熱い視線に気づいたのか、柊一は恥ずかしそうにまた俯いてしまった。
その手が俺の白衣の裾にキュッと触れる仕草に、熱を出した柊一を横抱きにし運んだ日の事を思い出した。
そう言えば、あの日の柊一も俺の白衣をキュッと握りしめていたな。
まるでお守りみたいに大切に。
その仕草が可愛くて白衣を掴む君の手に、俺の手をそっと重ねた。
ぬくもりが、重なる。
柊一の手はもう冷たくなかった。
温かくなっていた。
マグカップを握りしめていたせいか。
それともミルクティーを飲んだせいか。
それとも……俺のせいか。
「柊一……改めて言うよ。俺と真剣に付き合って欲しい」
もう一度、俺からの告白をする。
君に対して抱く想いを、しっかり受け止めて欲しいから。
柊一は無言だったが、しっかりとコクンと頷いてくれた。
柊一の心は俺の方を向いている。そう感じられて嬉しくて、思わず君の目元の涙に口づけしてしまった。
「わっ!」
ところがその瞬間、弾けるように……
柊一は真っ赤な顔で、頬を押さえて立ち上がてしまった。
おいおい……そんな初心な反応を?
あっもしかして……本当に君は何も知らないのか。
「あっあのっ……僕、そろそろ帰ります」
慌てて回れ右するもんだから、行かせたくなくて後ろから抱きしめてしまった。
「あっあのっ……」
柊一は耳を真っ赤にして、腕の中でもがいた。
「じっとして。何もしないよ。今日はここで休め。俺は仕事をしているから」
「そんなこと……」
「少し寝た方がいい。君と雪也くんの事は、これからいろいろ相談させて欲しい。でも今の君が一番優先すべきことは、とにかく一度深く眠ることだ」
「……ですが」
「大丈夫。俺が傍にいるから、もう怖くないよ」
「そっそんな……子供みたいな扱いは困ります」
「甘えていいよ。俺には」
柊一がはっとした表情で俺を見上げる。
「甘える……?」
きっと君はもう長い間……甘えていなかったのだろう。
誰にも……
由緒正しき旧家の長男として……両親亡き後は雪也くんの親代わりとなり、慣れない仕事をし、ひと時も甘える暇も、場所もなかった君だから。
「甘えて欲しいよ。俺には……」
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