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淡い恋が生まれる 6
「ん……?」
俺を包む温もりに、微かに柊一の気配を感じて飛び起きると、はらりと勿忘草色のブランケットが床に落ちた。
「……柊一?」
慌てて柊一が寝ていた簡易ベッドを確かめると、もう彼の姿はなかった。
だが、そこには1通の手紙が置かれていた。
古風な君らしいな。
以前ブランケットを貸した時にも、手紙をもらった。少々硬すぎる文章だが、君からの感謝の気持ちがしっかり伝わってきたよ。
この手紙には、はたして何が書いてあるのか。
「森宮さんへ」
俺の名が書かれている!
そんなことにすら感動してしまう! これは……いよいよ重症だ。
だが森宮ではよそよそしいな。いずれ『海里《カイリ》』と呼んで欲しいが、君にはまだハードルが高いかな。
そこから続く言葉は、想像の上をいくものだった。
……
僕が人生に迷い孤独のどん底に陥った時に、身をもって助けてくれた人がいました。
その人は人生を諦めそうになった僕のことを、真剣に怒り、心から心配してくれました。
最初は「どうしてここまでしてくれるのか」と不思議でしたが
『頼ってくれ』『守らせて欲しい』『俺が守る』
その力強い言葉に抱きしめられた僕は……
強張った躰と心が一気に解け、ようやく泣けたのです。
暗黒の地底を這っていたのに、掬い上げられた心地でした。
だから僕はこれから……
あなたを信じます。
あなたの気持ちに寄り添います。
今日は会社に行ってきます。
明日の診察に同席しますので、どうか雪也のことをよろしくお願いします。
柊一
……
泣けて来た。
君がどんな想いで、これを書いてくれたのか。書く時に嫌でも思い出しただろう。君が昨日体験してしまった暴力による恐怖と心の絶望を。
それでも書いてくれた。
俺を信じ、寄り添ってくれると。
俺が『恋した柊一』は、俺にとって『愛しい人』になった。
俺を信じて欲しい。
俺は今まで誰かに助けてもらう事なく、いつだって強く自分の力で人生を歩んで来たと思い込んでいたが……そうではないの。
俺を信じてくれる人の存在が、何よりも大切だ。
そして信じてもらうには自分も相手を信じる事が大切だ。
たった一人でも自分を信じてくれる人がいれば、人は強くなれると教えてもらった。
俺は柊一を信じる。
柊一は俺を信じてくれる。
こんなにも心強い結びつきがあるなんて……
俺にとって柊一はかけがえのない存在だ。
自分を信じてくれる人がいると、人生に希望が見えてくる。
俺と柊一との間に芽生えた、この『信愛』……
近づけば近づく程、お互いに希望が生まれるような恋を、君としたい。
****
朝食を食べ終わると、海里先生の回診があった。
先生はきっとかなり寝不足だろうと思ったが、そんなこと微塵も感じさせない程に上機嫌だったので、兄さまの手紙にきっといい事が書かれていたのだと嬉しくなった。
「海里先生、おはようございます」
「おはよう! 雪也くん調子はどうかな」
「だいぶ落ち着きました。先生のお陰です」
「良かったよ。だが、やはり手術を早めた方がいいかもな」
「でも……それは」
手術にはとんでもないお金がかかるのだ。
お父様やお母様がいらした時は、僕の病がどれだけ家に金銭的な負担をかけているのか考えもしなかった。
生きていらっしゃるうちに感謝の言葉を伝えられなかったのが悔やまれる。
「あぁそんな顔をするな。大丈夫だよ。俺に任せてくれ。いい案があるんだ。明日お兄さんに提案してみるよ」
「本当ですか」
海里先生が僕の頭を、優しくあやすように撫でてくれる。
大人の先生が力強く大丈夫だと言ってくれると安心できるし、信じられる。
しかもこんな素晴らしく格好いい先生が、僕の優しい兄さまのことを愛してくれるのは、もっともっと安心できる。
応援しよう!
僕に出来る限り、先生と兄さまの恋を応援したい!
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