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甘酸っぱい想い 25

「じゃあ戸締りをしっかりして、いい子でね」  森宮さんを見送るために車寄せに立つと、僕と雪也の頭を交互に撫でてくれた。何で僕まで?と思いつつ、こんな風に誰かに優しく気遣われるのが嬉しくて、どこまでも素直になってしまった。  氷のように張り詰めていた心は、こうやって溶けていくのか。 「はい!」 「はい」    雪也と声がぴったり重なり、顔を見合わせて笑ってしまった。 「君たちはとても可愛いよ。柊一また来週会おう」 「はい。お待ちしています。それまで菓子作りの練習をしておきますね」 「あぁ期待しているよ」  優雅にスーツの上着を翻して森宮さんは車に乗り込んだ。  背も高く足も長いので、彼が動作するだけで、颯爽とした雰囲気になる。  少し長めの明るい茶色の髪が、夜空に浮かぶ白い月光を浴びていた。  夜風に髪が靡く姿がどこまでも凛々しく麗しい人だと、ため息が漏れてしまう。  やがて森宮さんの乗った白い車はゆっくり動き出し、門までの曲線をゆったりと走りながら消えていった。  車が見えなくなるまで、雪也と手を振って見送った。 「はぁ~兄さま、海里先生の白い車って、なんだか白馬みたいですね」  雪也が夢見がちにうっとりと呟く。  同感だとは……流石にいい歳をした僕には言えないが、深く頷いてしまった。 「さぁ雪也、もう寝ないと」 「兄さま、本当に本当に良かったですね、海里先生とのこと……僕はとても嬉しいです」 「ありがとう。雪也が応援してくれるからだよ。心強いよ」 「良かったです! 今から来週が待ち遠しいですね」 「それは僕もだよ」 「兄さま、どうか最後まで頑張って下さい!」 「何を?」 「あっ、すみません……」  まったく雪也は妙な『恋の指南書』でも持っているのか。色事では僕より詳しくて、兄として面目が立たないよ。  それにしても、こんな風に明日が、未来が……待ち遠しいと感じるのは、一体いつぶりだろう。両親が亡くなり会社が倒産し、僕はいつだって明日がやって来るのが怖くて眠れなかったのに。  昼も夜も久しぶりに裕福な食事で満たされたのもあるのか。今宵は身も心も十二分に満たされ……朝までぐっすりと眠ることが出来そうだ。  だが布団に潜り目を閉じると、頬に受けた優しい彼の唇の感触と温もりを、突然思い出してしまった。 「あっどうして……」  頬に口づけされ、手を恋人同士のように重ねられた。  それらの行為は男同士なのに、ちっとも変でなかった。嫌でなかった。むしろもっと触れてみたいと躰の奥が疼く得体のしれないふわふわとした気持ちが込み上げて来てしまった。  ずっと夢みたいなことは考えてはいけないと思っていたのに、森宮さんと過ごすうちに長い間、心の奥底に押し込んでいた気持ちが蘇ってきている。  雪也が生まれ兄となり、跡継ぎとして帝王教育を受け、瑠衣が去り両親が他界し、会社が倒産し蔑まれても……心の奥底に消えることのなかった憧れでもあり希望。  森宮さんに対する想いは『初恋』だ。  僕がこの世で初めてした恋を……実らせたい。  そして彼とまるでおとぎ話のような幸せな人生を歩んでいきたい。  幼い頃読んだおとぎ話から生まれ、密に育てていた『甘酸っぱい気持ち』を素直に認めよう。  もうこれからは、誰にも支配されない僕だけの人生を歩みたい。  森宮さんを……素直に愛していきたい。 「甘酸っぱい想い」了 あとがき(不要な方はスルーでご対応ください)   **** こんにちは志生帆海です。今日は「甘酸っぱい想い」は了になります。 また明日から展開していきます。柊一の幼少期から始まった第一部は辛く切ない展開でしたが、第二部はどこまでも甘く描いていきます。 今日は素敵な動画を作っていただいたので、お知らせしますね! 実は『まるでおとぎ話』のプロローグ部分をご縁があって動画にしていただきました。花翠口せいさん@hasuguchi_sei が【創作BL作家さん応援企画】で創作の紹介ナレーション動画を作って下さったのです。おもちさん@0moti_moti0 の華やかで美麗な表紙絵と、せいさんの美声のコラボが、どこまでもドラマチックです。Twitterでご紹介しておりますが、よろしければ読者さまにも、ご覧いただきたいです♡ https://twitter.com/seahope10/status/1256049618099466240?s=20

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