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花の蜜 7
「紅茶をどうぞ」
「ありがとう」
白薔薇が咲き出した中庭で、優雅なアフタヌーンティーの始まりだ。
森宮さんと僕と雪也の三人で過ごす穏やかな午後に、感極まる。
少し前までは暗黒の世界……絶望の淵にいたのに、今は僕を脅かすものは消え去り希望で溢れている。その事がしみじみと嬉しかった。
「雪也くん、身体の調子はどうだい?」
「はい。ぐっと楽になりました」
「それはよかった。顔色もいいし、少し太ったね」
「あっはい。兄さまがいろいろご馳走を作ってくださるし、とても美味しいので」
「いい事だ、君はまだまだ育ち盛りだもんな」
和やかな会話を交わす二人のことを、ミルクティーを飲みながら交互に見つめていると、僕の方までふわふわした気持ちになった。
そしてさりげなくチラチラと森宮さんの唇を追ってしまう自分が恥ずかしくもなった。
もう、意識し過ぎだ。でもそれ程までに初めての接吻は僕を魅了し続けていた。
変になりそうだ。
「あれ? 兄さま、誰か来たみたいですよ」
「本当だ、見てくるよ」
耳を澄ますと正門の呼び鈴が鳴っていた。
一体誰だろう?
零落れたこの家に来客なんて……もう滅多にないのに。
僕が歩き出すと、森宮さんがすぐに追いかけて来た。
「待て、俺も一緒に行くよ」
「ですが、あなたはお客様なのに」
お客様……自分で言った癖に少し違和感を持ってしまった。
「本当にそう思っている?」
「あっ違います」
違う、森宮さんはただの『客』ではない。僕の……
「あの、あなたは僕の……大切な人です」
「ふっそれを聞けて安心したよ。君はまだまだ危なっかしいから最初は少し補助させてくれ。いいかい?」
甘い瞳で真摯に訴えられ、赤面してしまった。
ずるいな……
森宮さんは男の僕から見ても恰好良すぎる。洗練された物腰、西洋の血が混ざった華やかな容姿。背が高く颯爽とした雰囲気。中でも一番好きなのは、僕を見つめてくれる優しく甘い瞳。エメラルドグルーンがかった色はおとぎ話の世界を連想させる。
門を開けると見知らぬ初老の男性が立っていた。だが森宮さんはすぐに反応した。
「あの……」
「あなたが冬郷柊一様ですか」
「えぇそうですが」
隣に立っていた森宮さんが意外そうな面持ちで口を開いた。
「なんで執事のお前がここに?」
「海里様、突然すみません。今日あなた様がこちらへお越しだと伺い、お兄様を連れて参りました」
「兄貴が……わざわざ休日に?」
「契約を急ぎたいとの事ですので、早急に面談を」
「なるほど」
驚いたことに、来客は森宮さんのお兄様だった。
ホテルの重役でこの洋館との契約を担っている方なので、ぐっと気が引き締まる。
というわけで、さっきまでの和やかな中庭でのアフタヌーンパーティーは厳かなものに一変した。
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