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花の蜜 21
王子様……!!
『僕の王子様なんです。森宮さんは……僕に続きをもう少し……教えてください』
過去に他の誰からも受け取った事のない、可愛らしさ全開の言葉だ。
思わず脳内で何度も復唱《リピート》してしまった。
先程までの……冬郷家の当主らしい凛とした姿との差に、胸が震える。
もうこのまま彼を今すぐベッドに押し倒し、何もかも教えてしまいたい。いや、教えるなんて余裕は、きっとないだろう。一気に俺の手で最後まで奪い取ってしまいたい!
口腔内ですら、あの気持ちよさだ。
一度君の内部を知ったら……俺はもう止まれないだろう。
恋に溺れるのは、もしかして俺の方なのか。
はぁ……自制心を保つのも大変になってきたぞ。
柊一に対しては、どこまでも優しく丁寧な段階《ステップ》を踏んで、教え込みたい気持ちと、獰猛な男としての本能が、いつも戦っているよ。
果たして……この煩悩に打ち勝てるのか。
「森宮さん……あの、僕、そろそろ戻ります」
うっ……この流れでその台詞か。
まったく柊一らしいと苦笑してしまった。
「どこへ行く?」
「あの……まず雪也にお休みの挨拶をして、僕も寝る支度を」
「なるほど」
弟にお休みの挨拶か……俺にとっても雪也くんは大事な存在だ。
だから柊一の気持ちを、どこまでも尊重したい。優しい兄としての柊一も好きだよ。俺にも瑠衣という可愛い弟がいるから、その気持ちがいかに大切で尊いか、知っているつもりだよ。
「あぁそうだな。早く行っておいで」
「すみません。あの、ゆっくりお休みくださいね」
「あぁお休み」
申し訳なさそうに……柊一が深々とお辞儀をする。
やはり名残り惜しいが仕方がない。
去っていく彼を見送っていると……隣室からガタゴトと物音がした。
シャワーの水音と話し声。
『アーサー!! なっなんで、君まで』
『風呂に一緒に入ろう』
『えっここをどこだと? 柊一さまのお屋敷ですよ』
『だからこそだ』
『もうっ言っている意味が分かりません』
『さぁもう脱いでしまった。俺がまた風邪をひいてもいいのか』
『うっ……ズルい人です』
『可愛いよ。ルイ……』
『あっ……』
へぇ、期待通りの展開だな。
お隣はこれからいろいろありそうだ。
そうだ……!!
「柊一」
「えっ……あの、何か」
柊一を呼び止めて、振り向かせ、約束《Promise》を取り付けることにした。
「寝る支度が整ったら、もう一度ここに来てくれないか」
「え?」
柊一の頬が瞬時に朱に染まる。
全くこの子は何を考えているのか、初心な反応がいちいち可愛くて、俺の口元も自然と綻ぶよ。
「……何もしない」
「あっはい」
「まだね」
「あっ……はい」
そう、まだなのだ。
彼との初夜は、儀式のように厳かに迎えたい。
今日はその前の予行練習のようなものになるだろう。
「そうだ、俺もシャワーを借りても」
「あっはい。場所は……」
「もう覚えたよ」
「タオル等……用意してあります」
「ふっ、ありがとう」
****
シャワーを浴びる。
期待に火照った身体を冷まさないと。
まだ最後まで手を出しては駄目だ。
海里……我慢しろ!
鏡に映る自分の顔に向かって、誓う。
まだ蕾なんだ……柊一は。
成人していても、心は幼いのだ。
まだ花の蜜は作られていない。
固い蕾を……少し緩めてやらねば。
俺の指先《Fingertips》で──
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