155 / 505

花の蜜 21

 王子様……!!   『僕の王子様なんです。森宮さんは……僕に続きをもう少し……教えてください』  過去に他の誰からも受け取った事のない、可愛らしさ全開の言葉だ。  思わず脳内で何度も復唱《リピート》してしまった。  先程までの……冬郷家の当主らしい凛とした姿との差に、胸が震える。  もうこのまま彼を今すぐベッドに押し倒し、何もかも教えてしまいたい。いや、教えるなんて余裕は、きっとないだろう。一気に俺の手で最後まで奪い取ってしまいたい!  口腔内ですら、あの気持ちよさだ。  一度君の内部を知ったら……俺はもう止まれないだろう。    恋に溺れるのは、もしかして俺の方なのか。  はぁ……自制心を保つのも大変になってきたぞ。  柊一に対しては、どこまでも優しく丁寧な段階《ステップ》を踏んで、教え込みたい気持ちと、獰猛な男としての本能が、いつも戦っているよ。  果たして……この煩悩に打ち勝てるのか。 「森宮さん……あの、僕、そろそろ戻ります」  うっ……この流れでその台詞か。  まったく柊一らしいと苦笑してしまった。 「どこへ行く?」 「あの……まず雪也にお休みの挨拶をして、僕も寝る支度を」 「なるほど」  弟にお休みの挨拶か……俺にとっても雪也くんは大事な存在だ。  だから柊一の気持ちを、どこまでも尊重したい。優しい兄としての柊一も好きだよ。俺にも瑠衣という可愛い弟がいるから、その気持ちがいかに大切で尊いか、知っているつもりだよ。 「あぁそうだな。早く行っておいで」 「すみません。あの、ゆっくりお休みくださいね」 「あぁお休み」  申し訳なさそうに……柊一が深々とお辞儀をする。  やはり名残り惜しいが仕方がない。  去っていく彼を見送っていると……隣室からガタゴトと物音がした。  シャワーの水音と話し声。 『アーサー!! なっなんで、君まで』 『風呂に一緒に入ろう』 『えっここをどこだと? 柊一さまのお屋敷ですよ』 『だからこそだ』 『もうっ言っている意味が分かりません』 『さぁもう脱いでしまった。俺がまた風邪をひいてもいいのか』 『うっ……ズルい人です』 『可愛いよ。ルイ……』 『あっ……』  へぇ、期待通りの展開だな。  お隣はこれからいろいろありそうだ。  そうだ……!! 「柊一」 「えっ……あの、何か」  柊一を呼び止めて、振り向かせ、約束《Promise》を取り付けることにした。 「寝る支度が整ったら、もう一度ここに来てくれないか」 「え?」  柊一の頬が瞬時に朱に染まる。  全くこの子は何を考えているのか、初心な反応がいちいち可愛くて、俺の口元も自然と綻ぶよ。 「……何もしない」 「あっはい」 「まだね」 「あっ……はい」  そう、まだなのだ。  彼との初夜は、儀式のように厳かに迎えたい。  今日はその前の予行練習のようなものになるだろう。 「そうだ、俺もシャワーを借りても」 「あっはい。場所は……」 「もう覚えたよ」 「タオル等……用意してあります」 「ふっ、ありがとう」 ****  シャワーを浴びる。  期待に火照った身体を冷まさないと。  まだ最後まで手を出しては駄目だ。  海里……我慢しろ!    鏡に映る自分の顔に向かって、誓う。  まだ蕾なんだ……柊一は。  成人していても、心は幼いのだ。  まだ花の蜜は作られていない。  固い蕾を……少し緩めてやらねば。  俺の指先《Fingertips》で──  

ともだちにシェアしよう!