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花の蜜 23(キスの日スペシャル)
森宮さんの背丈に合う寝間着……
もっと早く買っておけばよかった。
まさか今日泊まる事になるとは予想していなかったので、またもや準備不足で反省する。
どうしよう。前回はそれで着るものがなくて……裸で寝ていたのに。
あの日の驚きと目のやり場のなさを、もう一度味わうのは、居たたまれない。
そうだ! 浴衣なら多少の長さは誤魔化せるかも。
慌てて、父さまの箪笥を探してみた。
「あった! まだ袖を通していないし、これなら!」
そう思って用意したのだが、まさかこんなはだけた着方をしているとは。
森宮さんはいつも完璧なのに、こんな一面もあるのかと微笑ましくなってしまった。
少し余裕が出たので、当主として客人をもてなす気構えで、浴衣を再度着付けてあげようと彼の帯をはらりと解いた。
そこまでは良かったのだ。
そこまでは冷静だった。
目の前に現れたのは、ギリシャ彫刻のような逞しく美しい肢体だった。
男性美……
肉体美……
なんと表現したらよいのか……逞しい胸から臍、腰のラインを見つめ、吸い込まれるように、そのままうっとりと脚へと視線をずらしていくと。
「えっ!!」
下着をつけていると勝手に思い込んでいた部分には、
逞しい……っ!!
よく考えれば浴衣に下着をつけないのは、珍しい事ではない。
なのにハッキリと弟以外の男性のそこを見たことがなかったし、まして僕が慕う森宮さんのだと思ったら、もう……クラクラと目が回ってしまった。
「柊一? 大丈夫か!おいっ」
森宮さんの声が、遥か彼方に聞こえてくる。
躰がゆらりと倒れていく。
床に着く前に、逞しい腕によって抱きしめられた。
「ん……?」
おぼろげな視界だ。ここはどこだろうと手を動かして探ると、辺りは薄暗く、糊のきいたシーツの上だった。そして僕の躰は温かい人肌に包まれていた。
「えっ!」
「よかった。気が付いたね」
暗闇で森宮さんと目が合うが、僕に一体何が起こったのか理解できなかった。
「さぁ少し水を飲め」
「あっはい……」
喉が渇いているかも……
状況を呑み込めないままコクンと頷くと、彼は手元に持っていたグラスを自分の口に含んだ。
「え……」
そのまま自然に顔が近づき接吻され、驚いて薄く開いた唇を、舌で探られ割られた。
「んっ……っ」
僕の喉に、森宮さんの口伝いに水が届く。
とても甘い水だと思った。
「美味しいか」
「……もっと……欲しいです」
自分でも驚いた。強請るなんて。
「ふっ、可愛いな。もっと飲め」
「あっ……」
森宮さんから与えられる水が、喉の渇きをどんどん癒していく。
それから唇の輪郭に沿って舌先でチロチロと舐められると、くすぐったくなり、小刻みに啄まれると、もどかしい気持ちにもなった。
口づけ一つ一つに、僕の躰はこんなにも過敏に反応するようになったのか。
やがて舌を絡められ濃厚な口づけへと移り、湿った音が空間に響き出した。
「そう、いいね。そのまま舌を絡めて……あぁ上手になったね。練習の成果があったね」
「本当に?」
僕はベッドに横たわり、森宮さんに膝枕されているような体勢になっていた。
褒められて嬉しくなり、目を細めて見上げると、彼は僕の頬にしっかり手をあて口を塞いだ。僕も促されるままに身をゆっくりと反らして、彼の首に手を回した。
もっとあなたに触れたくて
あなたの髪にも触れてみたくて。
あ……何だか僕たちの姿勢って、美術史で習った『エロスのキスで目覚めるプシュケ』みたいだ。しかも彼の腕が僕の胸元に回り、しっかりと抱きしめられると、それまで感じたこともなかった両胸の尖りが疼くのを感じた。
ここは寝室のはずなのに、自然に囲まれ、鳥がさえずる楽園が広がっているようだ。
森宮さんからは、絶え間なく……情熱的で甘美な《Romantic》な、おとぎ話のような接吻を受け続けている。
やがて、優しい音楽まで聴こえ始めた。
接吻って……とても素敵だ。
あなたと同じ世界を共有できる。
あなたと、ひとつに、なれるから。
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