158 / 505
花の蜜 24
腕の中で気を失った柊一。
参ったな……君をこんなに驚かすつもりはなかったのに。
浴衣では下着をつけないのが正式なマナーだと執事が言っていたが、違ったのか。
てっきり君は全てを理解した上で、着付けしてくれるのかと思った。
躊躇いもなく浴衣を脱がすから……まさか俺の股間を凝視した後、逆上せて気絶するなんて驚いたよ。
全く……どこまでも愛らしく、可愛い子だね。
初心な柊一は、やはりここまで初心だったと苦笑した。
「目を覚まさないのなら、連れて行くよ」
君を横抱きにし、ベッドに移動する。
俺もそのまま浴衣をもう一度自分なりにザっと着なおして、君の横に潜り込み膝枕の姿勢を取った。
こんなに無防備な君を見るのは初めてだ。サラサラな黒髪が太腿を掠めてくすぐったいし、ひどく煽られる。
煩悩は沈めないと、また驚かせてしまうな。
はぁ……それにしても……これは一体何の苦行か。
心を落ち着かせようと、枕元の水差しを手に取りグラスに注いで飲んでいると、柊一がうっすらと目を覚ました。
どこかぼんやりした様子が危なっかしくも艶めいていて、水を飲みたいと言う君に、思わず口移ししてしまった。
俺の水は甘くて美味しいだろう?
柊一との口づけは止まらなくなり、ますます深まるばかり。
「美味しいか」
「……もっと……欲しいです」
驚いたな。
今日の君は別人みたいだ……そんなに強請っていいのか。
しかも仰向けで躰を反らす姿勢を取らせても恥ずかしがることなく、俺に躰を預け、細い腕を伸ばしてくれた。
俺の髪に触れたそうなので自由にさせてやると、嬉しそうに、ふんわりと微笑んでくれた。
固い蕾だった君が少し綻んでいくようで、見惚れてしまうよ。
「森宮さんの髪って、とても綺麗ですね……少しブロンドがかって……触れると気持ちいいです」
「そうか。嬉しいよ」
日本人離れした容姿が嫌いで、自分の髪がいい色だなんて思ったことはなかったが、柊一に綺麗だと言ってもらえるのは嬉しかった。
もっと触れて欲しくて彼の上体を抱えなおすと、ちょうど彼の胸元に俺の腕があたってしまった。ちょうど尖りの真上辺りだ。
「あっ……」
柊一は少し驚いたように目を見開き、唇を噛みしめた。
もしかしてそこを意識しているのか、感じるのか。
まるでここは自然の楽園《Paradise》だ。
しかも絶妙のタイミングで愛を紡ぐ音楽が聴こえてきた。
壁越しなので微かにだが、人の声が重なって奏でられる愛の調和《ハーモニー》は流れて来た。
このまま君を最後まで奪ってしまいたい衝動に駆られるが、グッと我慢した。最後までは、まだ早い。
階段《ステップ》は慎重にのぼらないと……
「森宮さん、僕はあなたに全てを渡す覚悟は出来ています。だから続きを教えてください……」
震える声だったが、柊一も望んでいる。
次は胸の愛撫だ……そこに触れてもいいのか。
俺の手は彼の薄い胸を寝間着越しに撫でていた。
「あっ……うっ、そんな所に触れても……膨らみもないのに?」
「それは嘘だろう。君は今気持ちいいと思っている癖に」
「言わないでください。音楽が……」
「ん?」
「さっきから不思議な音楽が聴こえて、なんだか変な心地になります」
潤んだ目で俺を見上げて来るので、教えてやろう。
「君はあれをただの音楽だと思っているのか」
「……違うのですか。隣の部屋のレコードでは?」
「ふっ可愛いね。相変わらず……あれはアーサーと瑠衣が愛を紡ぐ音だよ。ふたりが躰を重ね、愛を繋いでる音だ」
「あっ!」
ようやく思い当たったらしく、柊一は正気になり、ガバっと起き上がってしまった。
恥かしそうに顔を真っ赤にして、寝間着の胸元を掻き抱いていた。
「逃げないでくれ。まだ最後まではしない。まだ君の心も身体も開いてないからね。でも少しずつ慣れて行こう? いいね」
「……はい。少しずつ……なら」
耳たぶまで赤くした柊一は、頷くので精一杯のようだった。
ともだちにシェアしよう!