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花の蜜 25
僕の躰に、森宮さんが触れてくる。
寝間着越しに胸のあたりを擦るように蠢く手に、困惑してしまう。
「あ……の?」
「どう? 感じる?」
「……うっ……少し、くすぐったいです」
何を探しているのか分からず、答えを教えて欲しくて……縋るように彼を見つめると、苦笑されてしまった。きっと僕が不慣れだから困っているのだ。
「ごめんなさい。僕……」
「いや……大丈夫だ。今日は一気に進み過ぎたね。沢山君に触れさせてくれてありがとう」
次の瞬間、僕は彼の腕から解放されてしまった。
「さぁもう柊一の部屋にお帰り」
「えっ……」
名残惜しい……
それが今の僕の率直な気持ち。
「あの、朝までここにいては駄目ですか」
「……」
あっ……返事がないのは……駄目ということ?
子供みたいに駄々を捏ねた自分が急に恥ずかしくなり、慌てて立ち上がった。
「すみません。図々しいことを。もう帰ります!」
「違う! そうじゃない。参ったな」
彼が長めの前髪をバサッと手で梳きながら、顔をあげた。
その動作・仕草の一つ一つにドキッとしてしまう。
「もう、何もしないから、ここで一緒に眠ろう」
彼が僕の手を引いてくれる。
セミダブルのベッドは、男二人で眠るには狭いので、必然的にくっつき合ってしまう。
彼が優しく背中を撫でてくれる。
「お休み。柊一……」
「おやすみなさい。森宮さん」
横向きになり、彼の胸に抱かれるような姿勢で寝かしつけられる。
彼の心臓の音が、今宵は子守歌。
とても早い鼓動だ。
僕も瑠衣との再会と先ほど交わした深い接吻に、興奮したままだった。
だが躰が疲労していたお陰で、深い眠りにつくことが出来た。
****
「すみません、寝坊しました!」
翌朝の柊一は目覚めた途端にあっという間に当主の顔に戻ってしまい、逃げるように部屋を飛び出そうとした。
「待て。少し落ち着け」
「で、でも……森宮さんは朝食の支度が出来たらお呼びするので、このままお部屋でゆっくりされていて下さい」
「分かったから。まずはその寝間着のボタンを留めてくれ」
「えっ」
柊一のボタンは何故か上から3つ目まで外れていたので、鎖骨から胸元まで丸見えで艶めかしい姿だった。
「えっ、いつの間に。というか森宮さんの浴衣も……ほとんど着ていないのでは? あぁ……もう、目のやり場に困りますので、ご自身で直しください」
柊一が目を瞑りながら叫ぶ様子が可愛くて、少し悪戯したくなる。
「また君が直してくれよ」
「ですがっ、しっ下着を」
「ちゃんと穿いたら、してくれるか」
「うっ」
いよいよ泣きそうな表情で照れまくる君を抱きしめたくなり、俺もベッドから降りると、扉をノックされた。
「海里? 入ってもいいか」
「るっ瑠衣!」
「え? 柊一さまがそこにいらっしゃるのですか。すみませんが、入りますよ」
扉が勢いよく開き、瑠衣が紅茶を持ってツカツカと部屋に入ってきた。
「瑠衣っ、これは……その。あっモーニングティーだね。お前がいれてくれたの?」
柊一は流石に決まり悪いらしく、必死に話題を変えようとした。
「柊一さまが何故ここに? あっ……そうだ。勝手にすみません。泊まらせていただいたお礼に少しでもお役に立てればと」
扉が更に開く。
「というわけで、瑠衣は朝早くに、俺の腕の中から見事にすり抜けてしまったのさ」
「アーサー!」
アーサーは執事のような瑠衣の姿を恨みがましく見つめ、その腰を自身の方へと引き寄せた。まるで瑠衣は俺のものだと誇示するかのように。
それにしても瑠衣は執事のようなスーツ姿で、アーサーもいかにも気品ある英国貴族らしい緑のチェックパンツにベスト、ネクタイという出で立ちで、お似合いだ。
なのに俺たちは……
俺ははだけて皺くちゃな浴衣姿。
柊一は寝坊した子供みたいな寝間着姿に胸元の釦《ボタン》が取れ、かなり危うい姿だ。
「森宮さん……助けて下さい」
流石の柊一も当主の仮面を被るに被れず、恥ずかしそうに襟元を押さえ、俺の背中に隠れた。
ふっ逃げ込んできたのか。
いいよ、俺が盾になろう。
今は……俺が君の騎士《Knight》だよ。
それで、いいか。
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