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花の蜜 33

「兄さま、兄さま! 瑠衣の薬指のサイズが分かりましたよ」 「雪也よくやったね。バレなかった?」 「はい! 不思議そうなお顔をしていましたが」  日曜日の秘密の結婚式に向けて、僕と雪也は大忙しだ。  弟との共同作業を、歳を忘れて童心に帰り楽しんでいた。  これって……子供の頃、雪也と積み木でお城を作りあげた時の高揚した気持ちと似ているな。  そう考えると、やはり僕の心は本当に軽くなった。  あの日、氷の城のような病院の屋上で父と誓った日から……ずっと縛っていた心を、自分で解放したのだ。  心の手綱は、今は僕が握っている。  僕の人生は僕のもの。  だからこの先は自分の心の主《あるじ》でいたいと思う。  瑠衣を驚かすために、実はアーサーには理由を話して協力を求めた。  彼もとても乗り気になってくれ、むしろ感謝された。 「兄さま、明日はいよいよ指輪を買いに行きますか」 「うん、アーサーさんの観光を兼ねてね。よく考えたら僕たちから瑠衣に贈り物をするのは初めてだね」 「はい! 瑠衣は驚くでしょうね、結婚式が今から楽しみです」 「そうだ、ひとつ困った事があって……あの秘密の花園の門は厳重に鍵がかかっていて開かないんだ。誰かを呼んで鍵を壊してもらうしかなくて」 「そうなんですね。でも無理矢理壊すのはあまり良くないですよね。今回は中庭のテラスでもいいのでは? 大切なのは中身だから、外見に拘りすぎて台無しにしたくないですよね」  確かに雪也の言う通りだ。  扉を開く機会は、今ではないのかもしれない。    無理して開けるよりも、時が満ちるのを、自然に開かれるのを待とう! **** 「ハァっ……もうっ……もうっ……」 「んっ、ルイ……その声も色っぽいよ」 「もうっ……アーサーは体力を取り戻し過ぎだ……節操なくて困る」 「ルイの躰が良すぎて、ルイを愛しすぎて……どうにかなりそうだ」 「……ああ、あ、あっ……」  達したばかりで震える裸の胸の尖りをアーサーに啄まれて、また艶めいた声を上げてしまう。その声に煽られた彼が、再び僕の足を開き、深く貫く。 「んんんっ……ううっ……あっ」  その後も、何度も何度も繰り返される行為に、いつの間にか意識を飛ばしてしまった。  気が付くとベッドに裸のまま俯せに寝ており、アーサーが熱いおしぼりで躰を拭いてくれていた。  今度は仰向けにされ……丁寧に僕の股間のものも、その奥に溜まったものを指で掻き出されて、酷く戸惑ってしまう。 「やっ……っ!」 「ルイ、気が付いたか」 「アーサー駄目だ!……君に、そんなこと、させられない」  長年執事として働いてきた僕には、誰かに何かをしてもらうという事に慣れていない。ましてこんな事まで! 「瑠衣……疲れただろう。明日の午前中は、少しゆっくりしているといい」 「どうして?」 「明日は柊一と雪也くんと東京を観光してくるよ」 「……珍しい事を」 「君は少し躰を休ませろ。夜な夜な君が意識を飛ばすまで抱いてしまって悪い……流石に疲労困憊だろう」 「……アーサー」  確かに躰が軋んで……酷く怠い。 「本当に、そうさせてもらっても……?」 「あぁ日曜日には大事な用事が控えているしな」 「うん。柊一さまを驚かせたいし、海里からも頼まれているし」 「なるほど、それでは指輪が必要では」 「アーサー、なんでそれを」 「結婚式には必須の物だろう」  アーサーが得意げにウインクした。 「そうなんだ。サイズを知りたくて、そうだ。さり気なく調べてもらえないかな」  僕は嘘をつけないので、どうしてもバレてしまいそうだ。  海里が柊一さまを驚かせたいという気持ちを尊重したいのに、自信がない。 「ふっ、そういう事なら俺に任せろ」 「やっぱり君は頼もしいね」 「やっと褒めてもらえたな」  抱かれた余韻から、自然と綻ぶ言葉……  こんな姿、絶対に誰にも見せない。  アーサーにだけ。

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