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花の蜜 43

   「わっ!本当にデザートが出て来ましたよ。兄さま、とても美味しそうですね」 「うん、そうだね」  食後のデザートは、抹茶アイスクリームだった。  早速、雪也が美味しそうに頬張った。 「冷たくって美味しいです。兄さまもどうぞ」 「う、うん」  僕も森宮さんの腕の中をすり抜け、雪也の隣に座った。  森宮さんが名残惜しそうに見つめてくるので、居たたまれない。  今はこれ位で、中庭ではもっと―  僕の中には、彼に触れてもらいたいと強請る僕がいた。  火照った躰……今は静めないと。 「それにしてもアーサーさんと瑠衣、なかなか戻って来ないですね」 「まぁ二人の世界をお楽しみ中なのだろう」 「でも……アイスが溶けてしまいますよ」 「そのうち戻ってくるだろう」  森宮さんはそう言うが、僕は気になって仕方がない。 「やっぱり呼んできます」 「うん、そうか。じゃあいっそ届けてやればどうだ?」 「あっそうですね。では行ってきます」 「……野暮じゃないといいが、まぁ柊一にはいい刺激になるかな」 「……ここは屋形船ですよ」 「だが貸し切りだ」  森宮さんの意図することが分からず首を傾げてしまう。だが展望台への階段を途中まで上がり彼らの姿を捉えた時、お盆をひっくり返しそうになった。  満天の星空の下、彼らは躰を寄せ合っていた。  瑠衣が手すりを掴み、その背後にアーサーさんが立っている。見事な金髪が月明りを受けて輝きを増し、その腕の中に瑠衣がいた。瑠衣の黒髪が夜風に攫われ、彼の躰が震えているのが、ちらちらと見え隠れしている。  えっ、こんな場所で一体何を?    背後から抱きしめているだけではない。瑠衣の浴衣の内側にアーサーさんの手が潜り込み、動いている。  煽情的過ぎる姿に、僕の躰は一気に燃え上がってしまった。 「ん……あぁ……もう駄目だ。ここまでだ」 「まったく……君の浴衣姿には煽られるよ……」  瑠衣の声に、アーサーさんの声が重なる。  瑠衣の項が朱に染まっていくのを呆然と見ていると、アーサさんが僕の視線を感じたらしく、ちらっと振り返った。  彼は瑠衣を背後から抱きしめたまま、目でアイスを机に置くように指示した。  だから……瑠衣のためにも僕は素知らぬふりをしてあげた方が良いと判断し、逃げるように森宮さんと雪也の元に戻った。  さっきまで執事のようにテキパキと指示を出していた瑠衣とは別人だった。    後ろ姿だけでも、十分綺麗だったよ。  僕も森宮さんに抱かれたら、あんな風に……艶やかな色に染まるのか。 「柊一、大丈夫か」 「……あっ、はい」 「さては、あてられたか」 「い、いえ……」  どう答えていいのか分からず、やっぱり紅葉のように赤くなって俯くしかなかった。 ****  屋形船を下り、浴衣を着替えているとアーサーさんがデパートの袋を渡してくれた。 「えっ……これは?」 「今日、東京案内を買って出てくれたお礼だよ。君と雪也くんにお揃いの洋服だ」 「わっ僕にもですか」  開けてみると、雪也とお揃い若草色のシャツとベージュのチノパンだった。すごく上質なものだ。しかも、これってさっき立ち寄った銀座のお店のだ。いつの間に…… 「こんなに高価なものを、よろしいのですか」 「いいんだよ。君たちは顔立ちがよく似ているから、着せてみたくなった。俺の道楽だから気にするな」  なんだか着せ替え人形みたいで恥ずかしい。僕と雪也が小さい頃、頻繁にお揃いの洋服を母に着せられていたのを思い出した。  幼い雪也に付き添い動物園に行ったり、水族館に行ったり、母はあちこち連れて行ってくれた。 「よく似合うよ。柊一」 「そうでしょうか」 「君たち兄弟は本当によく似ている。俺は君を恋人として愛し、雪也くんを家族として愛していく。だから何も怖がらずに飛び込んできて欲しい」 「はい……もう、そのつもりです」  森宮さんといると何も怖くない。  何があっても一緒にいてくれるという信頼感が、心強さとなっている。 「行こうか。今宵も中庭《terrace》で練習《Lesson》が待っている」

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