179 / 505

花の蜜 45

 どうしよう、どうしたらいい?  こんな場所で、僕っ──  なんて事を、しでかしてしまったのか。  もう恥ずかしくて堪らない。  だから思わず年甲斐もなく、泣きべそをかいてしまった。  これでは……まるでおねしょをした子供みたいだ。 「柊一、隠れるな。泣くな」 「……うっ……」 「あーもうっ」  森宮さんの胸元に隠した顔を、どうしても上げられない。  何だろう……  今宵の練習《Lesson》は、いつにも増して気持ち良かった。  彼にずっと僕が抱えていた長年の苦悩を預けたら、途端に心が軽くなって、酔ったようにふわふわして……そんな状態で受けた口づけはどこまでも激しくて、その刺激すらも気持ちよかった。だから僕の方からも積極的に求めてしまった。  口腔内に森宮さんの舌が入ってくる度に、甘い陶酔感に満ちた。 「柊一、流石にそろそろ顔を上げてご覧」  辛抱強く待ってくれた彼に、再び促された。 「うっ無理です。僕……すみません。こんな場所で……はしたないことを」 「くすっ君は本当に可愛い子だね」  森宮さんが両手で僕の頬をそっと包んで、クイっと上を向かせた。  厳かな月光を浴びた彼の明るい髪色が眩くて、目を細めてしまった。 「いい顔をしているな。俺に感じてくれたんだね。さっきの君……すごく可愛かったよ。口づけだけで達してくれて嬉しかった」 「あっあの……怒ってないのですか。呆れてないのですか」 「はぁ……馬鹿だな。男なら分かるだろう。どういう時にあぁなるのか」 「うっ」 「もう素直になって、恋人からの愛撫に感じる事は罪ではない」  さっきまで口づけを受け続け、濡れそぼった唇の薄い皮膜を、手入れの行き届いた指先で何度も撫でられる。  くすぐったい……でも、気持ちいい。    唇を開くと、うっとりとした甘い吐息と共に、素直な気持ちが零れ落ちた。 「……とても……気持ち良かったのです。気持ち良過ぎて……だから」 「ちゃんと言えたね。さぁもう夜の庭《 Night Garden》は卒業だよ」 「えっ」 『卒業』という言葉が寂しく感じ、彼のことを不安げに見つめると、額にチュッと軽く口づけを落とされた。 「あぁもうそんな顔するな。この先は庭ですることではないだろう。君の素肌は白薔薇にだって見せたくないんだよ。俺だけの中で君を剥いていく」  彼の手が動く。  確かめるようにもう一度……僕の下半身、つまり股間部分を布越しに触れてきた。 「あぁ……沢山出たようだね。まるで花の蜜のようにしっとりと湿って……ここ、冷たいだろう? 屋敷に戻って着替えないと、風邪を引いてしまうな」 「ですがっ」 「大丈夫だよ。俺がついている」  森宮さんに背中を押された。  どこまでも優しく誘導されて、僕は屋敷に戻ることになった。    森宮さんと出逢うまで、性欲なんて殆ど感じなかった。滅多に起きない生理現象が、まさか口づけに誘導され、こんな場所で溢れ出すなんて、びっくりしてしまった。  庭先で下着を汚してしまった羞恥から、頬は赤く染まったままだ。  『イク』……って、こう言うことなのか。  最近では……森宮さんに触れれば触れるほど、僕の躰が過敏に反応するようになって、この先僕は一体どこに行きつくのか。  経験のない僕には、何もかも未知の世界だ。  怖いと言ったら、少し怖い。  でも森宮さんに触れられるのは気持ちよい。  だから彼となら進んでみたい。  もっともっと、あなたとの距離を縮めていきたい。  ぴったりと肌を合わせてみたい。    

ともだちにシェアしよう!