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花の蜜 53
イラスト/ おもち様 @0moti_moti0
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それは『まるでおとぎ話』のような光景だった。
しあわせの輪というものが存在するなら、まさに今目の前にある。
海里と柊一さま、雪也さまが、手と手を繋いでひとつの輪になっている。
目映いまでの光の輪が生まれた。
柊一さまと雪也さまの艶やかな黒髪に太陽が降り注ぎ、天使の輪が出来ている。
僕の横に立つアーサーが感慨深げに言った言葉にハッとした。
「瑠衣……白衣を着た海里は、大天使ラファエルのようだな」
「ラファエル?」
「あぁラファエルという名前には、『天の医者』という意味があるんだよ」
肉体的にも精神的にも痛みや傷を抱えた時に、大天使ラファエルを呼ぶと、安らぎに満ちた空気が流れ、ストレスと不安を和らげてくれるのだとアーサーが教えてくれた。
まさにそれだ。
「瑠衣、君のそのカメラで、彼らのこの瞬間を撮ってあげるといいよ」
「あっそうだね」
旦那さまが遺していかれたカメラを構えると、旦那さまと奥様の気配を近くに感じた。
ファインダー越しに見る世界は、天に召されたお二人が見たかった世界だ。
カシャカシャ――
シャッター音に振り向いた柊一さまは、ハッとした表情でカメラを見つめた。
「瑠衣、そのカメラって、もしかして僕のお父様のものでは?」
「そうですよ。天国のご両親さまにかわって、このカメラが柊一さまと雪也さまの幸せを見届けます」
「そうか……ありがとう!」
しあわせ溢れる笑顔で、柊一さまと雪也さまが、こちらを見た。
もう大丈夫だ。
このご兄弟の未来は明るい――
海里が傍にいてくれるから、大丈夫だ。
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