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花の蜜 61
僕は森宮さんに横抱きにされ、窓辺から離された。
何だか、まるでおとぎ話のお姫様みたいだ。男なのに、そんなことを考えてしまうなんて恥ずかしい。でもいつだって……密かな憧れの場面だった。
ギュッと目を瞑ると、以前こんな風に彼に運ばれた事があるのを、思い出した。あれはまだ苦しくて切なかった頃だ。病院の待合室で熱を出してしまった僕を看病してくれた。
記憶がなくとも覚えている。
だってこの広い胸も逞しい腕も、上品な甘い香りも……僕の心が覚えている。
「あの……」
「行こう、俺たちの出航だ!」
彼は甘く微笑み、まるで航海に出る船のように、部屋の奥へと僕を誘った。
ベッドに優しく降ろされたが……この先どうしたらいいのか分からなくて、ベッドボードに肩を預け、じっと彼を見上げるしかなかった。
「柊一、どうした? 」
「あの……森宮さん」
縋るように向かい合った彼の肩に手を回すと、そのままギュッと抱きしめられた。
「あぁ君って人は、いつまでも堅苦しいな。そろそろ俺の事は……名前で、海里《かいり》と呼んでくれないか」
僕もそう呼んでも?
ずっと雪也が海里先生と呼ぶのが羨ましかった。でもきっかけを掴めなくて……
僕の……海里さんと呼んでみたかった。
「……海里……さん?」
「そうだ、いい子だ」
「あっ、んっ――」
不意打ちで顎を掬われ、チュッと口づけされた。
「んっ……」
一度触れてしまえば止まらなくなるのは、お互いよく理解していた。
海里さんの慣れた口づけが、どんどん深まっていく。
「んんっ――」
あっという間に、翻弄されてしまう。
彼が色恋に慣れていたのが少しだけ癪だったが、今は僕だけを見てくれている。それが伝わってくるから、もう迷わない。
月下の中庭で、彼から手解きを受けた。
これから先は……練習なんかじゃない。いや、最初から練習だと思ったことなんて、一度もない。
お互いの唇を重ね温もりを分け合えば、広がっていく満ちる想い。
「舌を出してご覧……ほら」
「んっ……こうですか」
「そうだ」
恐る恐る口を開けば、海里さんの舌の侵入を深く許し、口腔内を思いっきり懐柔された。
頭の中がぼんやりして、とろけそうになってくる。
やがて彼の手が、僕の襟元のボタンを外しだした。
ついに……
「あっ、あの」
「そろそろ、いいか。君のこと……辛抱強く慣らしたつもりだよ」
海里さんは、見かけの派手さとは正反対で誠実で慎重な人だった。
男に抱かれるのが初めてどころか、女性とも経験のない僕に配慮して、暫くは唇を重ねるだけの優しい口づけのみで、決して無理はしなかった。
そして少しレッスンは進み、口腔内で深く繋がる事を教えてもらった。
そして今宵は……その先まで一気に進むのだ。
もう最後まで……
きっとこの先は歯止めが効かなくなるだろう。
でももう……それでいい。
僕はそれほどまでに、彼のことを信頼し愛しているのだから。
「もう我慢できない。今宵は途中でやめてあげることは出来ない。それでもいいか」
緊張のあまり上手く声が出せず、小さく頷くことしか出来なかった。
ベッドにドサッと押し倒された。
「あっ、あの……」
淡く白い月光が窓辺から差し込み、足元まで忍び寄って来る。
僕は恥ずかしくて、暗闇へと丸まっていく。
ベッドの隅に縮こまる僕に海里さんが覆い被さり、額、鼻筋、唇、耳たぶへと順番に沢山の口づけをしてくれた。
それでも緊張して震える手は絡められ、白いシーツの上に、ギュっと押し付けられた。
「抱くよ」
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