196 / 505

花の蜜 62

    白薔薇の甘美な香りに、部屋中が包まれていた。  先ほどまで窓を開けていたので、薔薇の香りが風に乗って届くのだ。    ついに、いよいよ始まる。  彼に抱かれる事の意味は理解していても、急に心配になり震えてしまった。 「柊一、どうして震えている?」 「あの、雪也が隣の部屋にいるから、心配で」  ベッドに仰向けにされたまま、壁を指さすと……その手を優しく五本の指で絡めとられてしまった。  手の甲に、甘く口づけされる。 「大事にするよ。心配しないで」  海里さんのひとつひとつの所作が美しくて、うっとりしてしまう。 「それに雪也くんなら大丈夫だよ。もうぐっすり眠っているから。さっき見たら幸せそうな寝顔だった。それに俺たちが結ばれるのを、彼も喜んでいるよ」 「ですが……」 「さぁもう委ねて。沢山気持ち良くさせてあげるから」  気が付けばジャケットはとっくに脱がされていた。更にネクタイも解かれ、シャツも大きくはだけ、裸の胸が丸見えになっていた。 「最初はここから」  トンっと指で押されたのは、ついていることすら意識していなかった乳首だった。 「あっ!」  いきなりキュッと指先で摘ままれたので、腰が跳ねる程に驚いてしまった。  僕は女の子ではないから、そこを弄られても……  それに前に一度触れられたが、こんな風ではなかった。  あの時は掠める程度だったのに。  どうしよう! 変な感じ── 「あぁ怖くないよ。躰の力をもう少し抜けるか」 「無理ですっ、あぁ……」 「仕方がないな。もっと乱れてみるか」  戸惑っていると突然、海里さんが胸元に顔を寄せてきた。  彼の明るい髪色のしっとりした毛があたって擽ったいと思ったのも束の間、濡れたあたたかい感触がさわりと蠢くのを感じた。 「ん……海里さん、やだ……そんなところ……」  彼が僕の小さな乳首に吸い付いていた。そのまま、ちゅうちゅうと音が出る程きつく吸い上げられ、腰がぶるぶると震えた。 「あ……いやっ。それ……っ、変になります」  本当に変な気分になってくる。しかももう片方の空いている乳首を指先で捏ねられたりするうちに、下半身にどんどん熱が籠っていくのを感じた。  合間合間には雨のように口づけも降って来る。 「はぁ……はぁ」 「ふうっ、ほら、ちゃんと息をして。しかし柊一は本当に初心だな。こんなに綺麗な顔をしていて優しいから、学生時代はさぞかしモテただろう?」 「そんなことないです……それどころじゃなかったので」 「そうなのか。それは嬉しいよ。よかった」  続いて海里さんの手のひらが、ゆっくりと慎重に僕の脇腹を撫でた。彼の手の感触が心地よくて、くすぐったいような心地良いような……ふわふわとした不思議な気持ちになった。 「そう……いい感じだね。リラックスして来たね」  怖がる僕の髪を手櫛で優しく梳きながら、囁いてくれる。 「もう……全部脱がすよ、いい?」  コクンと頷くので相変わらず精一杯だ。  いよいよなのだ。更に進むのだ。  海里さんに、この先は教えてもらう。  ベルトを外され下着ごと持って行かれ、剥き出しになった下半身に、夜風がさぁっと音を立てて吹き抜けた。 「あっ窓……やっぱり閉めないと……声が漏れてしまいます」 「部屋が少し蒸し暑いから、このままでいいよ。大丈夫。この家の庭は広い」 「でも……」 「もう静かに」  更に着ていた白いシャツも、完全に脱がされた。  これで僕は生まれたままの姿になってしまった。  思わず手で股間を隠したのに、優しくずらされてしまう。 「隠さなくていい」 「でも、僕だけ裸なんて……」 「あぁ俺も脱ぐ」  海里さんは、バサッと豪快にスーツを脱ぎ飛ばした。 「柊一、これでいいかい?」 「うっ……」  海里さんの裸体は風呂場や部屋で見たことはあったが、免疫なんてついているはずもなく、目のやり場に困った。  それに今は、彼の筋肉が美しい逞しい躰が、僕の上に覆い被さっている。素肌同士が密着しているのだ。つまり僕は海里さんの腹の下に敷かれている。  ふたりの姿を冷静に考えれば、あまりに卑猥で……顔が真っ赤になる。  さっきから海里さんが僕の躰を穴があく程見つめてくるので、居たたまれないような、消え入りたい気持ちになってしまう。  本当に、僕はこういうことに慣れていない。  海里さんは、どこか苦し気に呟いた。 「よかった……綺麗なままで。ずっといつ君が身売りしてしまうかと冷や冷やしていた。ましてあのパーティーに現れた時は、ひっくり返るほど驚いた」 「あ……もう言わないで。あの時のことは」 「あのパーティーで俺は二度目の一目惚れをしたんだよ。今度は時間をかけずにすぐに手に入れようと誓った瞬間だ」 「え……あっ……んんっ!?」  剥き出しになった下半身の僕の物を、気が付けば海里さんがすっぽりと咥え込んでいた。

ともだちにシェアしよう!