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花の蜜 64
「今から指を挿入して慣らすよ。もしも痛かったり辛かったら、ちゃんと言うんだよ」
「……はい」
瑠衣のくれた『魔法の小瓶』の使い道を、漸く理解して動揺した。
そうか……想像していたよりも、ずっと大変なんだ。
男同士で、繋がるのって。
海里さんの指先が、僕の秘めたる部分につぷりと慎重に潜り込んできた。
「うっ……」
指1本でもこんなに圧迫感、異物感があるなんて……この先大丈夫だろうか。
「いいかい? ここを広げていくよ。少しづつ慣らしていくから力を抜いてね」
「ん……んっ」
「あぁそんなに硬くならないで、ゆっくり息を吸って吐いて……規則正しく呼吸を整えて」
これでは外科医の海里さんの、ただの患者になってしまう。
もっとこう……ロマンチックにしたいのに。
「海里さんっ、あの――」
必死に両腕を広げて、彼の背中にしがみ付いた。
そして素直な言葉を吐き出した。
ずっと我慢し耐えて生きてきた僕なのに、彼の前ではこんなにも脆くなってしまうのか。それとも甘えられているのだろうか。
「どうした?」
「少し怖い……です」
「それでいい。何でも話して欲しいよ、君には……あぁ大丈夫。だいぶここも広がって来たよ。分かる? もう二本の指になっているよ。上手だ」
「……本当に?」
「いい子だよ」
優しく囁かれ、髪を指で梳かれる。
幼い子供みたいだ。僕――
そのまま僕の襞の内側を、長い時間をかけて広げられた。
「あっ、あっ――」
どの位時間が経ったろう。
僕は額に大粒の汗を浮かべ、さっきからひっきりなしに切羽詰まった声をあげていた。なんだか変な感じ……下半身に甘美な痺れが蔓延していくよう。
「いいね。たっぷり濡れてきた」
何度も足された薔薇の香りの香油が、くちゅくちゅと僕の部屋に卑猥な音を立てていた。
「ん……もっと触れて下さい」
「ここだね」
最初は怖かったのに、今はもっと触れて欲しいと自分から強請っていた。
気持ち良すぎて、感じ過ぎて――
窓を開けているのに汗まみれになっていると、海里さんの躰からも、ふわっと白薔薇の香りが漂ったような気がした。
触れられた部分が、とても熱い。
僕の太腿や胸に、彼の手のひらが行き来するうちに、心も身体もどんどん解されていく。
両親を失ってから頑なに閉ざされた心も、弟を守ろうと必死だった心も、全部、海里先生が時間をかけて緩めてくれた。
だから……今度は僕から、僕の躰の全てをあなたに明け渡したい。
「これからはもう……ひとりで頑張りすぎないで欲しい」
「海里さん」
「この先は、ふたりで生きていくのだから」
「うっ……はい」
嬉しくて嬉しくて……
もうひとりじゃないことが、嬉しくて。
そんな風に思ってもらえることが嬉しくて――
白薔薇が花弁がひらひらと舞うように、僕の目からは大粒の涙が零れていた。
「あぁ泣かないで。ツンと澄ました外での君にも、そそられたが、俺の腕の中でそんな顔してくれるとは……煽られるな」
「もうっ、早く全部あなたのものになりたいです」
「いいのか。もう止まれないよ。本当に後悔しないか」
「しませんっ」
「参ったな。君は一見か弱そうなのに芯が強い」
「そんな」
「そこがまたいいのだよ」
ちゅっと一度……軽く口づけされる。
「さぁいよいよ大海に出るよ。途中、波が荒くても大丈夫だからな。俺と一緒にいれば沈まない。俺を信じて」
「はい。あっ……」
突然、思いっきり片脚を掴まれ、彼の肩に担がれてしまった。
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