198 / 505

花の蜜 64

  「今から指を挿入して慣らすよ。もしも痛かったり辛かったら、ちゃんと言うんだよ」 「……はい」  瑠衣のくれた『魔法の小瓶』の使い道を、漸く理解して動揺した。  そうか……想像していたよりも、ずっと大変なんだ。  男同士で、繋がるのって。  海里さんの指先が、僕の秘めたる部分につぷりと慎重に潜り込んできた。 「うっ……」  指1本でもこんなに圧迫感、異物感があるなんて……この先大丈夫だろうか。 「いいかい? ここを広げていくよ。少しづつ慣らしていくから力を抜いてね」 「ん……んっ」 「あぁそんなに硬くならないで、ゆっくり息を吸って吐いて……規則正しく呼吸を整えて」  これでは外科医の海里さんの、ただの患者になってしまう。  もっとこう……ロマンチックにしたいのに。 「海里さんっ、あの――」    必死に両腕を広げて、彼の背中にしがみ付いた。  そして素直な言葉を吐き出した。  ずっと我慢し耐えて生きてきた僕なのに、彼の前ではこんなにも脆くなってしまうのか。それとも甘えられているのだろうか。 「どうした?」 「少し怖い……です」 「それでいい。何でも話して欲しいよ、君には……あぁ大丈夫。だいぶここも広がって来たよ。分かる? もう二本の指になっているよ。上手だ」 「……本当に?」 「いい子だよ」  優しく囁かれ、髪を指で梳かれる。  幼い子供みたいだ。僕――  そのまま僕の襞の内側を、長い時間をかけて広げられた。 「あっ、あっ――」  どの位時間が経ったろう。  僕は額に大粒の汗を浮かべ、さっきからひっきりなしに切羽詰まった声をあげていた。なんだか変な感じ……下半身に甘美な痺れが蔓延していくよう。 「いいね。たっぷり濡れてきた」  何度も足された薔薇の香りの香油が、くちゅくちゅと僕の部屋に卑猥な音を立てていた。 「ん……もっと触れて下さい」 「ここだね」  最初は怖かったのに、今はもっと触れて欲しいと自分から強請っていた。  気持ち良すぎて、感じ過ぎて――  窓を開けているのに汗まみれになっていると、海里さんの躰からも、ふわっと白薔薇の香りが漂ったような気がした。  触れられた部分が、とても熱い。  僕の太腿や胸に、彼の手のひらが行き来するうちに、心も身体もどんどん解されていく。  両親を失ってから頑なに閉ざされた心も、弟を守ろうと必死だった心も、全部、海里先生が時間をかけて緩めてくれた。  だから……今度は僕から、僕の躰の全てをあなたに明け渡したい。 「これからはもう……ひとりで頑張りすぎないで欲しい」 「海里さん」 「この先は、ふたりで生きていくのだから」 「うっ……はい」  嬉しくて嬉しくて……  もうひとりじゃないことが、嬉しくて。  そんな風に思ってもらえることが嬉しくて――  白薔薇が花弁がひらひらと舞うように、僕の目からは大粒の涙が零れていた。 「あぁ泣かないで。ツンと澄ました外での君にも、そそられたが、俺の腕の中でそんな顔してくれるとは……煽られるな」 「もうっ、早く全部あなたのものになりたいです」 「いいのか。もう止まれないよ。本当に後悔しないか」 「しませんっ」 「参ったな。君は一見か弱そうなのに芯が強い」 「そんな」 「そこがまたいいのだよ」  ちゅっと一度……軽く口づけされる。 「さぁいよいよ大海に出るよ。途中、波が荒くても大丈夫だからな。俺と一緒にいれば沈まない。俺を信じて」 「はい。あっ……」  突然、思いっきり片脚を掴まれ、彼の肩に担がれてしまった。 

ともだちにシェアしよう!