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その後の甘い話 『海里の幸せな日々』 朝・3
朝食後、柊一を再び横抱きにした。
「えっ、歩けます! 雪也も見ているし、こんなの恥ずかしいです」
「えっとぉ……お兄様、無理なさらないで下さいね。僕の事はどうか気になさらず」
「だ、そうだ」
「もう……本当に困ります」
「じっとして。落ちてしまうよ」
俺の腕の中で小さく抗う君を、優しく封じ込めるのも快感だった。
そのまま衣裳部屋に連れ込み、きっちり着こんでいたスーツを手早く脱がした。
「え、あのっ?」
「着替えをするだけだよ。今は……」
滑らかな素肌には、薔薇の花びらが浮かび上がっていた。
これから出勤を控えている俺には、残念ながら目の毒なので、手早く新しいパジャマを着せてやった。
「あの、どうして……またパジャマなんですか」
「今日は一日ベッドで休んでいてくれ」
「僕は……そんなに軟じゃないです」
「駄目だ。俺が心配で仕事に差し障る」
「もう……海里さんってば、案外、我儘ですね」
「知らなかったのかい?」
彼をベッドボードにもたれさせ、腰にクッションをあててやる。
「そうだ、少し待っていろ」
急いで階段を降りて、屋敷の1階にある医務室を覗いた。
医務室まで備えているとは、かつてこの家がどれ程裕福だったかを物語っている。
薬棚の引き出しを開けると、そこに目当てのものがあった。
湯たんぽだ。腰を温めた方がいいだろう。
火傷しないように慎重に湯を注いでいると、雪也くんがヒョイと顔を覗かせた。
「海里先生ってば、とっても楽しそうですね」
「ははっ雪也くんに言われてしまったな。あぁ楽しいよ。最高に」
「僕はそんな海里先生を見るのが楽しいです」
「じゃあ需要と供給が成り立っているな」
「そういうことですね、ふふっ」
雪也くんは、年相応の悪戯な笑顔を浮かべていた。
健康的になったな。
「君の診察も、いずれここで出来るようにしよう」
「心強いです。あの……海里先生に改めてお礼を言わせてください」
「どうした?」
「兄さまのこと『溺愛』して下さって嬉しいです」
『溺愛』!
へぇ……よく知っているな。そんな言葉。
まさにそれだ。
俺は柊一のことを目の中に入れても痛くないほど、『溺愛』している。
「見苦しくないか」
「いいえ! 僕は兄さまがいろんな表情を浮かべて下さるのが、嬉しいので。その……ここ数年、ずっと眉間に皺を寄せて耐えていらしたので……」
「そうか。柊一は本当は感情豊かなんだよ。俺たちで沢山引き出してやろうな」
「はい、解放してあげてください」
「あぁ、そうしてやる」
もしも、おとぎ話の世界なら……
柊一の閉ざされた心を開く役目は、茨の城にやってきた騎士のはずだ。
もっともっと幸せに。
もっともっと笑って欲しい。
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