210 / 505

その後の甘い話 『海里の幸せな日々』 昼・2

 お二人のラブコールの邪魔をしないように席を外していたけれども、静かになったので、そっと兄さまの部屋に入った。  兄さまの頬は紅潮して、ハッとするほど綺麗だった。  もともと端正な顔立ちの兄さまだけど、今日は一段と麗しいな。  幸せで満ちていると……人ってこういう表情をするのかな。  そうえいば僕のお父様とお母様も似た表情をしていた。  お二人も本当に仲が良くて優しかったから。  僕もいつか皆に……追いつきたい。 「兄さま、お電話終わりました?」 「あぁ、ありがとう」  兄さまは本当に真面目だ。  海里先生の言いつけをちゃんと守って、本当に今日はベッドから降りるつもりがないようだ。  だから海里先生も安心して、お仕事して下さいね。 「ところで、雪也はどうして学校に行かなかったの?」 「えっと今日は特別です。兄さまの看病もあるし、僕たちに新しい家族が増えた記念日ですから」 「うん、そうだね。ねぇ雪也……僕たち幸せだね。海里さんのような素晴らしい人に、この家ごと見守っていただけて」 「はい! 僕もそう思います、嬉しいです」 「雪也にそういってもらえて、ホッとする。おいで、雪也……」  僕の手を優しく握ってくれる兄さまの指には、銀色の指輪が輝いていた。  本当はね、まだほんの少しだけ……僕の兄さまを海里先生に取られちゃったという気持ちがあったんだ……  我儘な僕で、ごめんなさい。  でも違うのですね。  兄さまは海里先生も僕のことも、それぞれに深く愛して下さる。  海里先生と本当に結婚された後も、何も変わっていない事に、ホッとした。 「雪也、お前が笑ってくれると、僕も嬉しくなるよ」 「兄さまはずっと僕の兄さまですよ」 「当たり前だよ。大事な雪也……お前の成長を見守らせて」  兄さまの清廉な笑顔は、いつにも増して輝き、眩しかった。 「この指輪、良かったですね」 「うん、朝起きたら指についていたので驚いたよ。それで海里さんに聞いたらね……」 「えっと、なんて?」 「これは『解けない魔法』だそうだよ……魔法って本当に存在するんだね」  兄さまは恥ずかしそうに俯いて、しみじみと指輪を見つめた。 「……なるほど」  海里先生も、やりますね!  兄さまが喜ぶツボをご存じで。  大丈夫だ……この二人はずっとうまく行く。  世間から少しずれている可愛い兄さまだけど、そんな兄さまを、丸ごと大きな愛で包んで下さるのが海里先生だ。    ますます、お二人の未来が見たくなる。    そのためにも僕は手術を受けて、大人になる。  そう胸の中でしっかりと誓った。 ****  同僚に忠告されて、一気に気が引き締まった。  柊一も、俺がこんな腑抜けではがっかりするだろう。  俺の職業は心臓外科医、人の命を預かる仕事だ。  仕事中は君への想いを封印するから、その代わりすべて終わったら君の元に飛ぶように帰るよ。  ん? これも皆に揶揄われる姿なのか。  だが、構わない。  俺が柊一を想う気持ちは、誰にも止められない。  

ともだちにシェアしよう!