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その後の甘い話 『海里の幸せな日々』 夜・2
「ほら、おいで。脱がしてやる」
「いえっ!いいです」
「いいから」
海里さんの指先がシャツの襟に触れたので、動揺してしまった。
昨夜……彼に抱かれた躰だ。
もう全てを曝け出した。
だから今更恥ずかしがる事ではないのだが……でもやっぱり、それとこれとでは違う。
「瑠衣にやってもらいますので……あっ」
しまった! つい、昔のように瑠衣を呼んでしまった。
海里さんが聞き漏らすはずもなく、そこを突っ込まれる羽目になってしまった。
「瑠衣? まさか君は瑠衣に着替えを手伝ってもらっていたのか」
「え、その……あっ……はい」
「いつ? どんな時だ?」
「お、幼い頃や、疲れている時に……は、恥ずかしいですが」
「大きくなってからも?」
「う……その」
ロンドンの執事学校を卒業したばかりの瑠衣は、僕が10歳の時に冬郷家の執事となった。
日中はお屋敷の執事業務と、お父様が自宅でお仕事をされる時は秘書のようなことをしていた。
そして夕刻から朝までは、僕と雪也専属の執事だった。
僕たち兄弟は、優しくて美しく凛とした雰囲気の瑠衣が大好きだった。
お母様はよくお父様と一緒に夜会に行かれたので、そんな時は10歳も年下の雪也をお風呂に入れるのは、瑠衣の役目だった。
『さぁ雪也さま。お風呂に入りましょう』
『おふろきらい……にいたまも、いっしょじゃなきゃ、いやぁ』
『あぁ困りましたね……』
『困ったなぁ』
『畏まりました。では柊一様も、ご一緒に。さぁ私が脱がして差し上げますので』
『え……うん』
雪也が生まれてから、母さまに甘えられなくなっていた僕は、瑠衣が雪也と同等に優しく扱ってくれる瞬間が、恥ずかしくも好きだった。
瑠衣になら、甘えられた。
瑠衣もそれが分かっているから、そういう時は僕を沢山甘やかしてくれた。
「んー聞けば聞く程、瑠衣の奴……いや、瑠衣だからいいものの、他の執事だったら許せないな」
「物騒ですよ。海里さんってば」
「それで、瑠衣にはどうやって脱がしてもらった? 教えてくれ」
「……まずシャツの釦を全部外してくれました」
「こう?」
海里さんの指が瑠衣の指に見えてきて、つい身を任せてしまった。
「次は……」
「シャツの袖を抜いて、脱がしてくれました」
「それから?」
「はい……それからベルトを外して、ズボンも」
「こうだね。俺の肩に掴まって」
ひやりと脱衣場のタイルが背中に触れた。
僕は何をしているのか……
「次は?」
「あの、肌着も」
「……うーむ、瑠衣の奴。今度会ったら、あいつの記憶から抹殺してやる」
「え? 抹殺って」
「いや、こっちの話だ。ほら、片足をあげて」
「はい……」
「よし、全部脱げたぞ」
「えっ」
見事な誘導尋問だった。
僕は広い脱衣場の……白い灯りの下で、全裸にされていた。
「あ……あの、恥ずかしいです」
思わず両手で躰を抱き寄せ、その場にしゃがみ込んでしまった。
「恥ずかしくないだろう? 瑠衣には散々シテもらったのに」
「シテって……もうっ、海里さん……瑠衣は執事でした。でもあなたは……」
「その先の言葉を聞きたい」
「う……僕の愛する人です。だから……恥ずかしいのです」
「はぁ嬉しい事を。少し待っていて、俺も脱ぐから」
「え! えっと……」
海里さんってば、この状況をもしかして、楽しでいらっしゃる?
僕の前で次々と着ているものを迷いなく脱ぎ捨てていく様子に、呆気に取られてしまった。
あれ?
でも……嫌ではない。むしろドキドキと心臓の音が五月蠅い程だ。
こんな風に誰かと戯れたことなどない。
不慣れで、どう反応していいのか分からない。
でも、この先の時間は……きっと。
ふたりだけの甘い夜がやって来る。
そんな予感に包まれていた。
おしらせ(不要な方はスルー)
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こんにちは。志生帆 海です。
完結後の甘いお話、お楽しみいただけておりますでしょうか。
いつも応援ありがとうございます。
つい、毎日甘い話を更新してしまっています♡
今日は柊一の思い出で、執事時代の瑠衣が登場しました。
彼の悲しい過去やアーサーとの出逢い編は、先週から連載を始めた
『ランドマーク ~そこに君がいてくれるから~』でじっくり描いていきます。
現在14話。二章 英国編に突入した所です。
瑠衣の生い立ちを描いた不憫な一章は、一気にまとめ読み出来ます。
物語は、ここからが本番です。やっとBLしていきます!
彼らの出逢いからじっくり萌えを注ぎ込んでいきたいです。あと17歳の海里先生に沢山会えます!
よろしけば、合わせてお楽しみいただければ……
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