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その後の甘い話 『海里の幸せな日々』 夜・3

 何を話したら良いか分からない。  さっきから、僕はずっと俯いたままだ。  僕の家の湯船はとても大きくて、大人二人で浸かっても問題はない。  だが、こんなに密着する必要があるのか。  僕は今……海里さんの足の間に座らされている。  だから、どうしたって意識してしまうよ。  この状態で意識しない方が変だ。  彼の逞しい胸にもたれ、彼に腰のラインを辿られて…… 「柊一、腰の具合はどうだ?」 「……」 「さっきからずっと大人しいね。湯加減は大丈夫か。あぁほら肩まで浸かって」 「……」 「おーい? 大丈夫か」 「……」 「もしかして」 「あっやっ!駄目ですっ」  腰を擦っていた彼の手が、すっと僕の高まりに遠慮なく触れてきた。 「やっぱり……駄目なんかじゃない。俺も嬉しいよ」 「……恥ずかしいです。こんなになって……何もしてないのに」 「何をしたい?」 「えっ……もう、海里さん、僕をあまり虐めないで下さい」  涙目になって振り向くと、唇をチュッと吸われた。 「ん……んんっ」 「だが、やっと、ふたりきりの時間だ」 「そうですが」 「早く会いたかった。早く抱きしめたかった」  顎を掴まれ口づけを深められると、湯の中で僕の高まりも連動して張り詰めていくのを感じた。  湯船の中でこんな風になってしまうなんて──僕の躰、もう制御出来ない。  すでに熱い湯で火照った躰だ。  口づけを受け、高まりを海里さんの大きな手のひらで扱かれ、許容範囲を超えた快楽の波に攫われそうで、急に怖くなった。   「あっ、怖いっ──」 「ごめん。驚かせるつもりはなかった」 「すみません……僕が不慣れで」  うまく出来なくて怖がってばかりで、恥ずかしい。  大人らしい振舞いが出来ない自分が、じれったい。 「あぁ泣くな。参ったな。君に泣かれると、どうしていいか分からなくなる」 「うっ」  僕はこんなに簡単に泣いたりしなかったのに──  彼を躰に受け入れた時から、何かが変わってしまったのか。 「おいで、もう何もしないよ。躰を洗ってあげよう」 「……ですが」  それも恥ずかしい。 「だが、瑠衣にはしてもらったんだろう」 「それは……まぁそうですが」 「うーむ、俺は今本気で瑠衣に嫉妬しているよ」 「え!」 「君は全部……瑠衣に学んだのだろう? 魔法の小瓶だってもらっていたし」    それはそうだが、瑠衣は最後の最後だけは教えてくれなかった。 「一番肝心な所は、海里さんに教えていただきました」 「そうだったな。嬉しかったよ」  海里さんは僕を浴室に立たせて、泡だらけのスポンジで包んでくれた。  モコモコの白い泡に包まれると、やっぱり昔のことを思い出してしまった。 …… 『にいたまーかみあらうの、イヤ! おめめ、しみるもん』 『しょうがないですね。柊一さま、雪也さまを抱っこしてあげていてください』 『わかった。おいで、ユキ』 『にいたまぁ、だっこー』  3歳の雪也は宗教画の天使のように丸みを帯びて可愛くて、僕も真っ裸で雪也を抱きしめると、柔らかくあたたかい素肌同士が触れ合い、何ともいえない愛おしい気持ちが込み上げてきた。  あれは、母性にも似た気持ちだったのかな。  世間一般の兄弟愛よりも強く深く感じるのは、そういう体験を幼い頃から積み重ねてきた影響があるのかも。 『そう、いい子ですね。そのままで。柊一さまも一緒に洗ってあげますね』 『え……う、うん』  雪也が3歳だったら、あの時の僕は13歳。今考えたら第二次性徴期で、当時の僕は身体の特に下半身の変化に戸惑っていた。 『あのね、実は瑠衣にしか聞けないことがあって』 『なんです? 男同士です。何でも気兼ねなく話して下さい』  瑠衣は、まるで最初から何を聞かれるのか分かっているような返答だった。 『僕のここ……最近変で、大きくなったり、かたくなったり……朝も変で』 『……あぁ。それは身体が大人になる準備を始めているのですよ』 『そうなの、瑠衣もそうだった?』 『え?まぁ……そう、でしたよ』 『そうか……』  あの時の瑠衣の顔、忘れられないな。  昔を懐かしむように、やさしく甘い表情を珍しく浮かべていた。でも、すぐにハッと我に返り、酷く寂しそうな顔になった。  今思えば、きっと英国に残してきたアーサーさんとの情事を思い出してしまったのだろう。  だってここは男同士で躰を繋げる時に、双方にとって大切な場所だから。  昨日、海里さんに優しく愛撫してもらい、驚く程に気持ちいい場所だと知ってしまった。  泡に包まれながら昔を回顧していると、海里さんが甘い声で耳元で囁いた。 「俺といる時に、違う男の事を考えている?」 「え、違います。瑠衣の事を思い出していたので」 「俺は……瑠衣にも妬くって言ったよね?」  どうやら、怒っているわけではないようだ。だって……彼の眼は、とても嬉しそうだったから。 「やっぱりここで何もしないというのは撤回しよう。今日は柊一をとことん気持ちよくさせたい」  シャワーをかけられ全身の泡を流されると、僕の素肌が再び丸見えになった。 「綺麗だよ」  海里さんが僕の前に、すっとしゃがみこんだ。  浴室のタイルに彼は膝をつき、僕の腰を抱きしめた。  それから…… 「あっ……待って、待って下さい」      

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