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その後の甘い話 『庭師のテツの独り言』4
風呂上りに、バスローブ姿で部屋に戻って来てしまった。
「おっと……まずいな。またローブのままだ」
柊一は『海里さん……もう、お願ですから、どうかお風呂上りにはパジャマを着てください。用意してあるのに……』と泣きべそをかくが、どうにも長年の習慣を変えるのは難しい。
そういえば英国では、瑠衣にもよく怒られたよな……
とにかく柊一、今宵も悪いな。
医者にしては長めの髪をタオルでざっと乾かし、ベッドボードにもたれて読書していると、重たい木の扉が控え目にノックされた。
「どうぞ」
「海里さん、檸檬水を作って来ました」
既にパジャマ姿の柊一が、よく冷えた檸檬水を水差しに入れて持ってきてくれた。
「あぁ美味しそうだね」
「はい。味見してみましたがサッパリしていて、これはお風呂上りに良いかと」
「嬉しいよ。さぁこっちにおいで」
「ですが、また……」
柊一が俺のバスローブを、じどっと見つめている。
「ははっ悪いな。癖がなかなか抜けなくてね」
「もう、僕が困るんです。目のやり場に……」
お互いに躰のすべて曝け出しているというのに、また可愛い事を。
「あー喉が渇いたな」
「あっすみません。今、グラスに注ぎますね」
「君に飲ませて欲しい」
明日庭師が来るのに一緒にいられないのがつまらなく、つい君に甘えてしまう。強請ってしまう。
「え、あの……どうやって?」
「前にレモネードでしてくれたように」
初めて深いキスをした日のように。
「駄目か」
「いえ……や、やってみますね」
純粋で素直な柊一は頬を染めながらも、自分の口にゴクっと檸檬水を含み、俺の唇にそっとあててくれた。
「ん……」
薄く唇を開くと、口移しに檸檬の香りが届く。
水と檸檬だけなので、とてもサッパリしている。
「美味しいよ」
「良かったです」
「今度は君も飲んで」
「あ……はい」
彼の腕を引いてベッドに上がらせる。
「あっ、待ってください」
ごそごそ足元で何かをしているのでベッドサイドを覗き見ると、きちんと向きを揃えて脱がれたスリッパが見え、微笑ましい気分になってくる。
育ちの良い、品の良い君を……
これから俺の腕の中で抱いて、喘がして、淫らな表情を沢山させる。
その事が申し訳ないような、いや、そのギャップにまたソソラレルのだとも。
「柊一も先に水分を取っておこう」
「え……」
「これから沢山汗をかくからね」
今度は俺が口移しで、飲ませてやる。
生まれたての雛のように、俺の腕の中で唇を薄く開く様子があどけない。
まるで幼子のように見え、俺の庇護欲が増す瞬間だ。
「ほら」
「あっ……う、う」
「美味しいか」
「はい……海里さんとの口づけは、いつも」
「なら、もっと」
「ん……っ」
俺からの愛撫を待っているかのように、震える胸元。
口移しで水を与える間に、布越しに擦って揉んでやる。
平らない胸なのに、俺はここに欲情してしまう。
ボタンを一つだけ外して手を中に潜らせると、すぐに胸の尖りを見つけてしまう。
「こんなに尖らせて」
「ち、違います。これは……」
「もう時間だよ。今から君を抱くよ」
「あの、今宵も?」
「嫌か」
「……嫌ではありません……嬉しいです」
彼をシーツという名の海に沈めれば、柊一の方から背中に手を回して、俺を優しく抱きしめてくれる。
「海里さん……今日もお仕事、お疲れ様でした」
心からのねぎらいを耳元で囁かれ、クラクラしてしまう。
こんなに優しい会話を……毎日交わせるなんて幸せだ。
君と出逢えたことを、毎晩のように君を抱く度に感謝する。
「まだこれからだよ。準備はいいか」
「……はい」
白いシーツの上に置かれた柊一は長い睫毛を震わせ、躰の力をふっと抜いてくれた。
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