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その後の甘い話 『庭師のテツの独り言』7

   目覚めると、もう朝だった。 「あ……僕、また途中で……」  布団の中の自分の躰をモゾモゾと確かめると、肌はさっぱりしていて石鹸の香りがふわっと漂っていた。良かった……ちゃんとパジャマも着ている。  でも、いつの間に…… 「あぁ、また海里さんに全部処理していただいたのか。不甲斐ないな」  申し訳ない。  まだ不慣れな僕は、彼に抱かれると強すぎる快楽に翻弄され……いつも途中で意識を飛ばすように眠ってしまう。  昨日も先に僕がバテてしまい、海里さんは物足りなかったのでは。  海里さんは僕を抱く時、時折、切羽詰まった顔をする。  もしかして沸き上がって来る情動を、押さえられているのでは。  僕はまだ不慣れだが……僕の中にだって、もっと強くもっと深く、そして何度も抱かれたいという欲求が確かに存在しているのに。    まだ対応しきれていないのが、もどかしい。  紳士的で優しい海里さんは、いつも僕を気遣ってばかりだ。  僕にもあなたのお世話をさせて欲しい。  僕の横でまだぐっすり眠る海里さんは、いつも通り全裸で、逞しい胸板、腕を見つめているだけでも、ドキドキしてしまう。    でも少し……疲労の色が伺える。 「お疲れなんですね」  もう少し眠っていただこう。  静かにベッドから降りると、もう最初の時のように腰が痛くて歩けない事はない。少しずつ僕の躰も抱かれるのに慣れて来ているのかな。  躰に程よい倦怠感はあるものの、とても爽やかな気持ちだ。  そうだ、僕も躰を動かして鍛えたらいいのでは。  海里さんに何度も抱いていただけるように、体力をつけたい。  そのためにも今日からの庭園づくり、積極的に手伝おう!  庭師に沢山教えてもらおう。そう思うと気合が入る。  だから今日はスーツでなく庭仕事が気兼ねなく出来るように、普段履かないワークパンツにTシャツという服装を選んだ。  これなら汚れても大丈夫だ。  身支度を整え、朝食の支度をした。  瑠衣に習った通りモーニング・ティーをいれて彼の元に戻ると、まだぐっすりと眠っていた。  海里さんの寝顔を見るの、久しぶりだ。  いつもと立場が逆なのが、くすぐったい。  でも、そろそろ起こさないと……  **** 「海里さん、起きて下さい。もう遅刻してしまいますよ」 「ん? あぁ……柊一は起きたのか」 「……はい、もうとっくに」  柊一はいつの間にパジャマから洋服に着替えており、爽やかに微笑んでいた。 「今、何時だ?」 「もう8時過ぎですよ」  しかもモーニングティーまで、テーブルに用意されている。 「えっ! 柊一は何時に起きた? 随分早かったんじゃないか」 「1時間ほど前に……今日は庭園の手入れを出来ると思うとワクワクして早くに目覚めてしまいました。海里さんはお疲れのようだったので」  確かに昨日は、手術も入って仕事が多忙だった。  その勢いと興奮で君を激しく求め、抱いた。  一度繋がった後、柊一はふっと意識を飛ばしてしまったので、後処理をしてやり、シャワーで清めパジャマを着せて……沸き上がる熱を封じ込め添い寝しているうちに、深い眠りに落ちてしまったようだ。  まさかこの俺が、寝坊するなんて――  今まで誰にも見せなかった姿、見られてしまったな。  気まずかったが、同時に楽しい気分にもなった。 「こんな姿、幻滅したか」 「まさか、むしろホッとしました」 「……なぜ?」 「海里さんの素の姿……見せて下さって嬉しかったので」 「参ったな。君って人は……」  こうやって、また一歩、俺たちは近づいていく。    そう思うと……どこまでも優しい気持ちになれる。 「穏やかな朝ですね。モーニングティーはいかがですか」 「ふっ英国式だな。アーサーにでもなった気分だ」 「えっと、どういう意味です?」 「こういう意味さ。彼ならきっとこうするよ。まずは君の口づけが欲しいと強請るだろう」 「あっ」  柊一をふわりと抱き寄せ、そっと唇を重ねた。 **** 「テツ、そんな大荷物を持って、どこに行くんだ?」  まずい人に見つかった。海里さんのお兄さんだ。 「……雄一郎さん、おはようございます」 「ふむ、海里に頼まれたのか。隠すなよ」 「……えぇまぁ」  海里さん、すみません。  雄一郎さんにはすっかりバレているようですよ。 「白薔薇の手入れだろう」 「何でご存じで?」 「お前が呼ばれた屋敷は、ホテルと契約を結びレストラン事業をするからな。そういえば庭が荒れていたから庭師を手配せねばと思っていたのだ。ちょうどいい、お前に任せる」 「え……」 「業務として気兼ねなく、頻繁に行っていいぞ」  そういう事なら、ありがたい。  俺の休みだけでは、きちんと修復できるか不安もあった。 「助かります」 「そうだ……あそこには、可愛い白雪姫が住んでいるよ」 「は?」 「いや、こっちの話だ」  雄一郎さんにしては珍しく……砕けた発言だ。  首を傾げながら、俺は堂々と海里さんの住む屋敷に向かった。

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