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その後の甘い話 『庭師のテツの独り言』 24
「海里さん、こちらです!」
「へぇ、こんな場所に階段があるとはな」
柊一に案内されて、屋敷の地下へ続く階段を降りた。
地下で窓がなく陽が差し込まないため、わざと赤やオレンジといった明るい色をたっぷり使った贅沢な空間だった。
特に赤ワインのような深紅の壁が印象的だ。
セラーで選んだワインをすぐに楽しめるようにホームバーまで設けられていではないか。カウチソファも設置されて……これは充実しているな。
「最高だな。こんな場所がこの屋敷にあるとは知らなかったよ」
「父がワインを好きだったようです。もしかしたら母との秘密の隠れ家だったのかもしれません。僕はここに入ることは許されておらず、先日瑠衣から教えてもらって、初めて存在に気付いたのです」
「そうだったのか。ワインがとても充実しているね」
1000本いや2000本? 天井まで組まれた棚にワインがぎっりし並んでいる。空調も温度もしっかり管理されいて、部屋ごとワインセラーになっている。
「そうですね。気づかなかったお陰で……売らずに済みました」
柊一は少し寂し気に、そして恥ずかしそうに目を伏せた。
君が一人で苦労を抱えていた時期に想いを馳せると、俺の胸まで苦しくなるよ。
「もうそんな事、二度としなくていい。買い戻したいものがあるのなら探すよ」
「海里さん……ありがとうございます。でも大丈夫です。僕の一番大切なものはここにありますので」
俺を一心に見つめる柊一。
「海里さんがいて下されば、もう何も……」
「嬉しいよ」
ずらりと横たわるワインの棚を背に、自然に、お互い求め合うように、口づけを交わした。
「なるほど、ここはいいね。俺達の秘密基地にもなりそうだ」
「くすっ、でもあまり長居すると凍えてしまいますよ」
「案ずるな。俺が温めてやる」
俺が大きく抱けば、ずっと背が低く華奢な柊一を丸ごと包み込んでやれる。温めてやれる。だから──
「あ……うっ、んー」
エプロンをつけた彼の姿……なかなかソソラレルな。しいていえば洋服を着ていない方が、もっといいが。
彼の胸から腰の硬質なラインを手で辿っていくと、恥ずかしそうに身を捩った。
「あ、あの、そろそろ……ワインを取って行かないと……上でテツさんが待っているのに」
「……今は他の男の話をしないでくれ」
「海里さん……? くすっ」
「なぜ笑う?」
「海里さんでも嫉妬するんですか」
「当り前だ。常に君の一番でいたいだけの男だよ。俺は」
心を込めて伝えると、柊一は破顔し、ふわりと細い腕を俺の背中に回して、ぎゅうっと抱きついてくれた。
「実は……僕も少し心配しました。テツさんと仲良さそうだったので。戻ったら……僕も混ざっても?」
「当り前だ。一緒にワインを飲んで語ろう。テツもいい人に巡りあうといいな」
「はい。とても実直で素敵な人ですね。その……」
「ん? 続きも聞きたい」
彼の唇に指で触れ、続きを促してやる。
「あの……海里さんには負けますが……あっ、こんな風に人に差をつけてはいけないと教わったのに、すみません」
恥ずかしそう頬を染め揺れる長い睫毛。
あぁ……なんと可愛いことを。
柊一は、本当に……清らかで、優しく、可愛らしい人だ。
「もう一度口づけしてくれ」
「はい……僕にも」
深紅の壁が、欲情を煽る。
先に俺が口にした赤ワインが香る、濃厚な接吻だった。
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