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庭師テツの番外編 鎮守の森 1
今日から『庭師テツの番外編』を連載します!
少しの間、海里先生と柊一のメインストーリーから離れますが、お付き合いいただけると嬉しいです。(彼らも、たまに登場します!テツの番外編の後には、雪也の手術前後の話と、秘密の庭園での結婚式シーンを予定しています)
リアクションや感想コメントありがとうございました。
反応いただけて、嬉しかったです。
それでは、どうぞ!
『庭師テツの番外編 鎮守の森』
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『庭師テツの番外編 鎮守の森』
季節は夏を過ぎ、秋になっていた。
あれから冬郷家の『秘密の庭園』の修復も順調で、柊一も変わらず熱心に手伝ってくれ助かっている。
俺は週に2日間、冬郷家で過ごし、あとは森宮家の庭の手入れに専念していた。
それにしても、もう10月か……早いものだな。
まさに『天高く馬肥ゆる秋』の到来だ。
朝からサラリと爽やかな空気が広がり、空は青く澄み、高く見える。快適な気温と適度な湿度が、人としての食欲を増進させるようで、俺もどことなく日々、飢えていた。
一体……何に飢え、何を求めているのか。
「テツ、ちょっといいか」
庭先で水やりをしていると、出勤のために正面玄関に出てきた雄一郎さんに、声を掛けられた。
「雄一郎さん、なんでしょう?」
「お前の弟子がようやく見つかったよ」
「本当ですか! 助かります」
「あぁ、なかなか住み込みの庭師になりたい人が見つからなくて手間取ったよ。まぁしっかり面倒をみてやれ」
「分かりました!」
「今日到着するそうだ」
「えっ、急ですね」
「お前が昨日一昨日と冬郷家に行って、いなかったせいだ」
「すみません」
「お前が手取り足取り教えてやれ」
「はい」
ついに俺の弟子が出来るのか……
この屋敷に15歳でやって来てから、気が付けば20年も経っていた。
ずっと師匠についてきたが、高齢のため、先日とうとう引退してしまった。
『テツや、世話になったな。今日からはお前がこの庭を守れ』
『はい! お世話になったのは俺の方です。15歳から息子同然に育ててもらいました』
『覚えも早く教え甲斐のある可愛い子だったな。まぁそんなお前もすっかりオヤジだがな』
おやじ? 流石にそれはないしょうでしょう。
(俺は新婚ホヤホヤの海里さんと同い年ですよ。オヤジと呼ばれるのは心外です)と言い返したかったが、師匠の顔を立て、グッと我慢した。
それにしても、どんな子がくるのだろう。
弟子というからには中学卒業したての若い少年だろうか。かつての俺のように……いや今時中卒は少ないから高校を出たばかりだろうか。すると18歳位か。初々しく若い奴がやってくると思うと、ワクワクするな。
願わくば……柊一のように健気で素直な子だといい。
勝手な空想を楽しみながら、弟子の到着をゆったりと待つことにした。
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北国・秋田
まもなく収穫の秋を迎える米どころの農村。
堤防の近くに、こんもりと木が茂っている場所がある。
ここは『鎮守の森』だ。
境内にはお稲荷さんや石碑が並び、木造の社が建っている。
その周りの樹木をひとりで長年手入れしてきたのが、おれだ。
綺麗に剪定し、雑草も刈り、毎日しっかり手入れしてきた。
「……それでは、行ってきます」
手を合わせ……先祖に挨拶し、クルっと背を向けた。
「さぁ行こう!」
目の前には、一本道しかない。
両側には稲穂が垂れる収穫間近の田んぼが広がり、頭上には抜けるような青空が広がる、真っすぐな道だ。
故郷を離れ、遠く旅立つために、歩き出した。
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