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庭師テツの番外編 鎮守の森 53
朝がやってきた。
いよいよ『中秋の名月』当日だ。
夜通し彼と躰を繋げ……明け方、ふたりで眠りに落ちてしまったようだ。
洗い立ての朝日に包まれる中、彼の背中を俺はしっかりと抱き留めていた。
「よかった、ここに居てくれて」
桂人は本当は森の精霊で、次に目覚めた時には姿を消してしまうのでは……
そんな恐怖と向かい合っていたので、安堵した。
かつて執拗に鞭打たれた彼の傷痕は、朝日に照らされると、まるで背中に刻まれた羽のように見えて、思わず涙が滲んだ。
忌々しく痛々しい傷にしか見えなかったのに、今はどこまでも神々しい。
俺は彼の躰を仰向けにして、寄り添うように近づいた。
彼の整った美しい寝顔を飽きることなく眺めるていると、至福の時というものを感じた。
ツンと澄まして、手を伸ばしても拒んで掴んでくれない桂人だったのに、今はこんなにも無防備に、俺の腕の中で寝息を立ててくれている。
そして何もかも……桂人の全てを見せてくれた。外側だけでなく躰の奥深くへの侵入も許してくれた。
美しい顔をもっと露わにしたくて、長い前髪をそっと指先で攫うと、瞼が
震えた。
「ん……テツさん……もう起きたのか」
「あぁ」
桂人はまだちゃんと目覚めていないらしく、ぼんやりとした表情で俺を仰ぎ見た。普段と違う心許ない表情に溜まらなくなり、身を乗り出して唇を押しつけてしまった。
「ん……どうしたんだ? テツさん」
しっとりと合わせた唇。口を開かせて舌も滑り込ませた。
「ンっ」
鼻にかかったような甘い声に一気に煽られ、彼に覆い被さって素肌に触れてしまう。まだ互いに何も身に着けていなかった。彼の胸から腹にかけて手のひらをゆっくり這わせれば、きめ細やかな素肌が吸い付くようで心地良かった。
煽られる。誘われる。
「んっ……」
お互いの体温の上昇を感じた。
「また……したい。いいか」
「え、もうっ──」
自分でも信じられない性欲の強さだった。今まで堰き止めていたものは、一度流れ出してしまうと止まる術を知らぬようだ。
桂人の腰を両手で抱き上げ、尻の奥へと指先を這わせ、狭間を探って窄まりを見つけ出した。そこは、まだ俺のもので湿っていたので容易に指先を呑み込んでしまった。
「んんっ……あっ」
「柔らかくなったな。ここ……」
「テツさんが、変えた……んだ」
「そうだ。全部俺がした」
「いいよ……また……シテも」
桂人が柔らかく微笑む。こんなに優しい表情も出来るようになったのかと、
感動すら覚える。
俺が桂人を変えてやる、もっともっと解き放ってやりたい。
彼の唇から愛を注ぎ、首筋、鎖骨、そして胸元へと舌を這わせた。
平らな胸元には沢山の鬱血痕が散っていた。
これ、全部俺がつけたのか……
知らなかったな。
人の肌を吸いあげると赤い花が咲くなんて……
まるで天上に咲く深紅の曼珠沙華のように美しい色だ。
胸の尖りを乳輪ごと口に含み、揉み上げるように吸うと、桂人は頬を染め出した。
「い……いやだ、そんなに……」
手の甲で目元を隠すが高い鼻梁と綺麗な口元が丸見えで、かえって劣情を煽るだけだった。
興奮は高まる一方。
彼の手を掴んで頭の横で固定し、シーツに縫い付ける。
羞恥で潤んだ瞳で、俺をぼんやりと見つめる眼差しが、意志を持ち「来て」と促す。だから俺の先端を擦りつけ蕾を開かせた。
「……ぁっ、や……いやっ」
口では抵抗しているが本心ではない。彼の蕾は俺を迎え入れるために従順に開き、すっぽりと呑み込んでしまうのだから。
「よく馴染むな」
「んっ──」
俺を包み込んでくれる感覚にもっていかれそうになる。桂人の感じる場所を目掛け腰をグッと深めると、彼は躰を弓のようにしならせた。
「あっ、うっ──う……やっ、そこ! あぁ……っ」
すすり泣き、縋って来る桂人が、どこまでも愛おしい。
庭師見習いで屋敷にやってきてから、全く他人に関心を持てなかったのに、何故だろう……この沸き上がる感覚は不思議だ。
不遇な生い立ちの桂人を、幸せにしてやりたい。
彼を幸せにするのは、この俺の役目だ。
どこにもやらない! 誰にも取られたくない!
俺に芽生えたのは……嫉妬心や独占欲だった。
桂人はますます俺の腹の下で、乱れていく。
「あぁ……っ、うっ……」
淫らに俺に全てを曝け出してくれるようになった。
俺の律動に合わせて揺れてくれる桂人が、ただただ愛おしくて。
『絶対に守り抜く』と、決心を固めた朝だった。
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