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庭師テツの番外編 鎮守の森 54

 耳鳴りがする。  さっきからずっと頭の中に響いている。 『桂人、今すぐに戻ってこい。私の元に……生贄として! 』  寄せては返す波のように、断続的に何度も何度も…… 「桂人、どうした? 」 「て、テツさん、その恰好!」  テツさんが部屋に備え付けられたシャワールームから、真っ裸のまま出て来たので、目のやり場に困ってしまった。 「もう俺たちは恥ずかしがる間柄ではないだろう。それより顔色が少し悪いぞ、どうした? 」 「な、何でもない」 「さぁお前も入ってこい、それから昼食を取ろう。朝からがっついて悪かったな」 「……いや、おれもシタかったから、構わない……」  初めての玩具に魅了される幼子のように、おれたちは互いの躰を貪り合った。  窓から差し込む光はどこまでも明るく、太陽光を背に立つテツさんの裸体は鍛え抜かれており、筋骨隆々で逞しかった。  それに比べて、行動範囲が制約されていたおれは薄っぺらい躰で、圧倒的な体格差を感じた。  あの躰に……おれは組み敷かれて、何度も貫かれたのか。  改めて昨日から今までの情事を反芻すると、猛烈に恥ずかしくなってしまった。穴があったら入りたい程に…… 「どうした?」 「何でもない!」 「さぁサッパリして来い。昼食の用意をしているから」 「分かった」  明るい所でテツさんの躰を見て、またムラムラと躰の奥が欲情してきた。    おれの躰……どこか変だ。  生まれかわったかのように、軽やかだ。  鏡の前に立って、己を映してみる。  おれ……以前からこんな顔だったろうか。  瞳は熱を出したように潤み、頬も染まり……唇にも血色が。  そのままシャワーの下に立つと、どろりとテツさんの残滓が内腿を伝い降りて来た。  白濁の液体が足首に流れ落ち、お湯と共に排水溝に流れて行く。  もっと欲しい、もっと注いで、おれを溺れさせて欲しい。  俺を呼び戻す声が聴こえなくなるまでに。  油断すると、またやってくるから。 『桂人、裏切るつもりか。早くしろ! 早く!』 「いやだ……行きたくない……行かない! 逝かない!」  シャワールームで無意識のうちに大声で怒鳴ってしまったようで、テツさんが血相を変えて入って来た。 「桂人、お前はもう行かなくていい! あんな儀式はもう中止だ。お前がした契約は反古となったのだから」  テツさんはまだ裸で、逞しい腕でおれを包んでくれた。 「テツさん……おれは行かなくてもいいのか」 「あぁそうだ。ん……お前、ちょっと見せてみろ」 「な、何……」  濡れた躰をバスタオルでざっと拭かれたかと思ったら、ベッドに再び寝かされてしまった。 「な、何をする?」  膝頭を掴まれて大きく開脚させられ……しかも尻の奥の窄まりをじっと真剣な表情で覗き込まれて、羞恥に震えてしまった。 「な、なんだよ。み、見るなよ……改まって」 「いや、ここ使い過ぎたな。薬を塗っておこう」 「ん……」  確かにテツさんを長時間迎え入れたので、ヒリヒリしていた。そこに指先で労わるように優しく軟膏を塗られた。    ふと自分の下半身を見つめると、躰の下に敷かれた皺くちゃの白いシーツに、乾いた血がこびりついていたので驚いた。 「どうだ?」 「あの……あれ……何で」 「あぁ……女性は初体験で血が出るそうだが、桂人も初めてだったので、少し出血したようだ」 「おれは……男なのに?」 「興奮して傷つけてしまったようだ。その……手加減出来ず、すまない」 「いや、大丈夫だ」  治療の後は、テツさんの胸に背を預けたまま、ゆったりと昼食を取った。  これでは、テツさんに餌付けされているようだ。 「ほら、桂人、口を開けろ」 「ん……」    テツさんが缶詰のミートをパンに挟んだ物を食べさせてくれる。さらにバナナやミカンなどのフルーツも剥いてくれた。魔法瓶に入った紅茶で温かい水分も……    こんな風に扱われるのは幼子のようで心許ないが、彼にすべて身を任せた。  抱かれ過ぎた躰はシャワーを浴びると気怠さを増したようで、眠たくなってきた。小さな欠伸を必死に噛み殺していると、テツさんに笑われた。 「可愛い欠伸だな。無理するなよ、桂人……眠いのか」 「……少し」 「じゃあ寝よう。まだ昼間で、夜までかなり時間もある。お前も今のうちに少し躰を休めないと」 「悪いな……」 「いや、流石に俺も疲れたよ。おいで、今は何もしないから、一緒に寝よう」  ひとつのベッドでテツさんに深く抱かれて、おれは目を瞑った。    目を閉じて、祈った……  幸せになりたい。  この人と──

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