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庭師テツの番外編 鎮守の森 61
診察台に桂人を寝かせて、彼の躰を隈なく診た。
この子は本当に躰中……傷だらけだ。
もともとあった足の腱や背中の傷痕に加え、裸足に裸同然の姿で戦ったせいで、手も足も躰もボロボロだった。
だが、匂い立つような品格を備えている。
消毒をしてやると少し痛むようで時々顔をしかめたが、気丈なふるまいだった。
桂人は美しい男だ。
「それにしても、まさか君が瑠衣の従兄弟だったなんてな」
「あの……海里さんと瑠衣さんの間柄は何ですか。やはり近しいもの……ですか」
「あぁ俺たちは異母兄弟なのさ」
「そうだったのか」
色気を増した桂人の醸し出す雰囲気は、今の瑠衣とよく似ていた。どうして今まで気付かなかったかと思う程に。
それにしても……さっきから俺に向けられた視線が痛いな。突き刺さってくるぞ、グサグサと。
「テツ、そう睨むなよ」
「ですが、海里さんは見張っておかないと」
「おいおい、俺には柊一がいるのに、一体何の心配だ? 」
「目を光らせています……桂人に近づく奴には誰に対しても」
なるほど。無口で無愛想で頑固で物わかりの悪いテツは、もういないというわけか。
「朴念仁だったお前が恋をすると、それはそれで厄介だな」
「なっ」
「テツさん、もうよしてくれよ! 聞いている方が恥ずかしい。おれは一方的に守られるのは、性に合わない」
「ふっそうだったな、桂人はそういう男だ。だがお前とおれは深い契りを結んだのだ。だから心配して……何が悪い」
「わ、悪くはないがっ」
桂人は突っ張っているが、テツに心配されるのは満更でもないようだ。プイっとそっぽは向いたが、本心から嫌がっているわけでないのが伝わってくる。
こいつら、俺の前でいちゃついて──
そう思うと、お邪魔虫のような気分で肩を竦めてしまった。
だが改めて思う。
今、こうやって冗談を言えたり、笑っていられるのは奇跡だ。
本当に良かった。
一時はどうなってしまうのか先が見えず、恐ろしかった。
調べれば調べる程、明るみになってくる驚愕の事実。
俺の育った森宮家の謎が深まるばかりで、逃げ出したくもなったさ。
そして知った瑠衣の生い立ち、瑠衣の母親……
瑠衣もこの森宮の呪いに絡めとられた人物だったのだ。だから英国まで連絡し、事情を話した。不思議なことに瑠衣は瑠衣で、そう驚くこともなく……魔法を解く鍵を持って駆け付けると言ってくれた。
それがあの『乳香』だったわけだ。瑠衣が英国に渡ったのにも理由がありそうで、震えたぞ。
「海里さん……もういいですか。桂人を連れて行っても」
「あぁあとは。テツが桂人を綺麗に洗ってやれ」
「分かりました」
「それから、これは俺からの贈り物だ」
「なんです? 」
「……軟膏だ」
ふたりの顔が、瞬時に赤くなった。
コイツら、まだまだ初心だな。いや、俺の柊一の方が初心だろうが……
頭の中で変な闘争心が燃えてしまい、苦笑した。
「テツ、桂人を幸せにしてやれよ」
「……おれがテツさんを幸せにしてやります!」
桂人が自ら軟膏を奪い取ったので、また苦笑してしまった。
テツよ、頑張りたまえ……
いや、存分に頑張ったようだな。
さっき診察の兼ね合いで、ちらりと桂人の内股の奥を確認したが、だいぶ使ったようで……まぁ……あとは本人同士に任せよう。
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