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庭師テツの番外編 鎮守の森 65
テツさんと居間に戻ると、柊一さんと雪也くんがいた。
いつの間に……?
あぁなる程、これで今回の儀式に関わる人が一同に集まったのか。
しかし照れ臭いな。つい先程まで浴室でテツさんと触れ合っていたので、まだ躰が火照っているのがバレそうだ。
「テツさんと桂人さん! ご無事でよかったです」
柊一さんは不思議な人だ。何も苦労していない慎ましいだけの青年かと思いきや、内に秘めた熱は激しく気高い。おれを東屋で見つけてからの彼の潔い行動と判断には感服した。そして今、心から無事の再会を喜んでくれている。
「柊一さん、色々ありがとう」
「柊一には助けられたな。俺たちが繋がるための場所を提供してくれて」
テツさんは隠さない。あの部屋で……おれたちが深く結ばれ一つになったことを。
「そのことで実は提案があって。あの部屋を、よかったら、あのままお二人で使いませんか」
「どういう意味だ? 」
「実は海里さんと相談したのですが、今日からお二人を冬郷家で雇っても宜しいでしょうか」
「えっ」
思いがけない提案に、心が震えた。
「柊一、随分突然だな。俺は構わないが桂人の意見はどうだ? 」
返事は一つしかない。だって、おれ……あそこが、とても好きだ。
「……おれも異存はない」
「だ、そうだ」
「じゃあ、決まりですね。お二人がいらして下さるなんて心強いです」
やっぱり柊一さんの決断力は、すごい。
「実はもう契約書も用意しました」
「早いな。まるでこうなるのを見越していたようだぞ」
テツさんが揶揄すると、柊一さんは澄ました顔で笑った。
「僕は冬郷家の当主ですからね……有能な人材には目がないのです! 」
澄ましていても、ニコッと微笑めば可愛らしく、そんな様子を白衣姿の海里さんが、壁にもたれながら目を細めて見守っていた。
「柊一、完璧だな」
「あ……海里さん。いつの間に戻っていらしたのですか。あの、これでよろしいですよね」
「あぁ二人の働きぶりはお墨付きだ。実は冬郷家には使用人が一人もいないので何かと心配だったが、不用心に見知らぬ人を雇うのも心配で躊躇していた。その点、テツと桂人なら安心だ。特に桂人には庭仕事だけでなく、家の仕事も手伝ってもらうといい」
「……はい!」
こうやって、おれの未来は塗り替えられていくのか。
テツさんの言った通りだ。希望に満ちた未来へと向かいだしている。あとは、用意された未来を手に入れるために、おれが精一杯、毎日を生きていくのみだ。
以前のように死ぬために生きるのではなく、テツさんと歩むために生きていく。彼との未来を、おれ自身で作っていく。
「柊一さん、おれ、あなたの役に立てるように、しっかり学びます」
深々と礼を言うと、雪也くんがおれの手を握ってくれた。
「ケイトさん。僕も嬉しいです。兄さまのサポートをぜひお願いします」
「あぁ……」
「兄さま! これでお屋敷が少しずつまた賑やかになっていきますね」
「そうだね、雪也。今後、お前の手術で家を空けることが増えるので、留守番をしてくれる人がいると助かるよ」
こんなおれでも……必要とされ、役立つのか。
まだ信じられない。
「そうだ! 兄さまいいことを思いつきました。せっかく瑠衣が来ているのだから、直接お仕事を習うといいですね。ほらっケイトさんは瑠衣の従兄弟だから、もしかしたら執事の素質があるかもしれませんよ」
執事……それは、なんだ?
首を傾げつつ、おれの従兄弟の瑠衣という人とは、もう少し話してみたかったので、いい機会だと思った。
彼は窮地に追い込まれたおれを救ってくれた恩人だ。
白い曼珠沙華のように清らかな彼は、あの女性と面影が似ていた。
あの女性は、彼の母……ようやく三途の川を無事に渡り、黄泉の国に辿り着いた頃だろうか。
窓の外を見ると、秋色に染まった深い森と澄んだ空が静かに広がっていた。
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