313 / 505
その後の日々 『冬郷家を守る人』 1
「瑠衣、ケイトってさ、シゴキ甲斐がありそうだな。君がビシバシと」
「アーサー? 僕はそんなに怖くないよ」
「そうだったか、俺には最近、強気の瑠衣だが」
「もうっ」
アーサーに言われて、僕の従兄弟の桂人を改めてじっくりと観察した。
顔は僕に似て端正だ(ん? これって自慢みたいで変かな……)だが僕よりもずっと意志の強そうなキリっと引き締まった顔をしている。ただし……残念ながら、とにかく口が悪い。社に閉じ込められて育ったのだから仕方ないが、敬語を知らないようだ。
「桂人には、僕にはない凛とした潔さがある」
僕にもこの強さがあれば、少しは違ったのか。
高校生の時も、ロンドンの屋敷でも、やられっぱなしではなかったのか。
いや、そうではない。桂人だって長年、憂き目、辛い目に遭ってきたのだ。それを経て、今の桂人がいるのだ。
「瑠衣も強くなったよ」
「そうかな? 」
「そうさ」
「……ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ」
柊一様と雪也様のお傍でずっとお役立ちたかったという気持ちは、今も密かに心の奥底に眠っている。だからこそ冬郷家の執事を志半ばで去った僕の心残りを、従兄弟の桂人に託せるのが嬉しかった。
僕は自分の母以外の身内を知らない。ずっと天涯孤独だと思っていたのに、まさか従兄弟という存在がいたなんて……本当に驚いたし、嬉しかったよ。
海里からの連絡は驚くべき内容の連続だったが、僕の従兄弟が捨て身の覚悟だと聞いたら、居ても経ってもいられなかった。
だから、はるばる海を渡り駆けつけた。そんな僕の行動を後押ししてくれたのはアーサーだった。
どんな時も君は僕の味方で、僕を守ってくれる人だ。
久しぶりの森宮家に、正直、足が竦んだ。雄一郎さんとの対面はあの事件が起きた17歳以来だったが、アーサーが近くにいてくれるだけで、僕は毅然とした態度を取れた。
あの日……傷ついた僕を抱いてくれた君を、僕は全面的に信頼し愛している。
だから何も怖くはない。
「アーサー、君が一緒にいてくれて嬉しいよ」
「俺も君といれて嬉しいよ。君が行く場所は、いつだって俺が行く場所だ」
あとがき(不要な方はスルーで)
****
こんばんは。遅い時間の更新です。
こちらは暫くお休みしようと思ったのですが、今日の『ランドマーク』の悲しい内容を向けて、どうしてもこちらで成長した瑠衣を描きたくなってしまいました。短い文章ですが、読んで下さってありがとうございます。
ともだちにシェアしよう!