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その後の日々 『冬郷家を守る人』 17

 桂人は不思議な男だ。僕の従兄弟で僕の母の血を色濃く受け継いでいる。  そんな人間が存在するなんて、つい先日まで夢にも思わなかった。生まれてから一度も自分の母のルーツを共有する血縁者に会った事がなかったので、新鮮な気持ちで彼と対面した。すると桂人も不思議そうに僕を見つめ、頬に手を伸ばして来た。 「瑠衣さんは、目元も鼻筋も口元も……あの人の面影を映しているな」 「それを言ったら、君だって」  僕が母に似ていると言われても、正直、実感が湧かない。僕の記憶では6歳の時に見た母が最期だった。だから僕も、桂人の美しい顔に母の面影を辿った。桂人の頬にそっと触れると、雷に打たれたように躰が震えた。体内を潮のように流れる強い血潮を感じたのだ。  同じ故郷、同じ祖先、激しい情熱や感情。  僕にも、こんなに強い感情があるのか。  怖い程に吸い寄せられていく。 「君とは本当にルーツが一緒なんだね。肌に馴染むよ。君は確かに僕の従兄弟だ」 「……瑠衣さんも、ずっとひとりだったんだな」 「うん、でも今は仲間に囲まれて幸せだ。桂人もその一員になったんだよ」 「……まだ慣れない」 「慣れていこう。君の終の棲家はここだよ」 「……そうだな」  僕よりずっと年下なのに、桂人にはギリギリの所で踏ん張ってきた強さがある。同時に脆さも……その危うい部分は、これからはテツが支えてくれる。 「テツ……改めて、久しぶりだね」 「あぁ瑠衣も元気そうで安心した」  森宮の屋敷で共に過ごしていた当時は、彼と殆ど会話は交わさなかった。彼は同じ使用人なのに、どこか一線を画す存在で頼もしくも眩しかったのだ。まして絶対に見られたくない場面を見せてしまった手間、気まずかったのもある。  だが今は、もうそんなこと関係ない。  あれはもう過去で、遠い昔のことだ。  テツも僕も、生贄の村出身という重いルーツを背負っていた。    これからは同志だ、と言っても、もう戦う相手のいない同志だ。 「テツ、お互いに幸せになろう」 「そうだな、桂人のことは任せてくれ」 「テツがいてくれるから頼もしいよ。僕の従兄弟をよろしく」 **** 「柊一どうした? 具合が悪いのか」  柊一が瞬きを何度もするのが気になった。 「いえ、その……なんだか眩しくて」 「ん? 」 「……皆さんが、頼もしくて」  彼の目の前で繰り広げられている光景を、言っているのだ。 「そうだな。今、この部屋には、冬郷家を守る人が勢ぞろいしているからな」 「はい……こんな日がやってくるなんて夢みたいです」 「それはご両親亡き後、柊一が立派に冬郷家の当主を務めてきたからだ」  本当にそう思う。  人は集まりたい場所があるから、集うのだ。   「柊一が提供する場所が心地良いからだよ。だから人が集まるのだ。君は立派な当主であって俺の恋人。さぁ桂人のことは瑠衣に任せればいいし、庭はテツに任せろ。君も漸く一息つけるな。雪也くんの手術に向けて専念していこう」 「はい。海里さんに支えられて……頑張っていきます」  健気で控え目な柊一は、この中では目立たない存在かもしれないが、俺にとっては珠玉の存在だ。  どんな宝石や地位、名声もいらない。  君がいてくれれば、それでいい。  そんな君に集う人がいるのが、とても嬉しい。 『冬郷家を守る人』  中秋の名月の置き土産のような人材の集結に、心から感謝した。                         その後の日々 『冬郷家を守る人』 了 あとがき(不要な方はスルーで) 完結後の番外編の余談話……『冬郷家を守る人』は、ここまでです。 豪華メンバーの勢揃い、楽しんでいただけましたでしょうか。 改めて勢ぞろいすると圧巻ですね。 男気溢れる冬郷家に住み込んでみたい気分で書いていました。 いつもリアクションで応援ありがとうございます。支えられています!!   この後、やはり余談として『桂人への執事レッスン』の模様を、 少し書きたいなと思っております。お付き合いいただけたら嬉しいです。

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