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その後の日々 『執事レッスン』 7
瑠衣がまず向かったのは、海里の部屋だった。
長年仕えた柊一に、朝の紅茶を再び届けたいのだろう。
トントン──
「誰?」
軽くノックすると、腰にタオルを巻いただけの海里が、華やかな余裕の笑みで扉を開いた。
「あっ海里……っ」
身体が濡れているのでシャワーの途中だったようだ。瑠衣は目のやり場に困ったように、スッと視線を逸らした。
ん? 何故、君が頬を染める? その反応はないだろう。俺という相手がいるのに。
それにしても海里と瑠衣は異母兄弟なのに体格差があり過ぎだ。本当に同じ遺伝子なのかと思うよ。
あぁ……俺は瑠衣のほっそりとした躰が懐かしい(って、1日触れられなかったからって、このざまか)
しかし海里の奴、相変わらずいい体格だな。筋肉もいい感じで逞しいし、悔しいが外国と日本の血がいい感じ混ざって、匂い立つような薫る美青年ぶりが圧巻だった。
俺も負けていられない。
「か、海里は、全く……またそんな恰好で」
「あぁ悪い、それより紅茶を持ってきてくれたのか。気が利くな。ん? アーサーもいたのか」
「いたよ!! 」
そこで俺とようやく目が合った。
「中にセットしてもいい? 」
「あぁ入ってくれ」
俺も興味本位で、部屋に入ってみた。
どれどれ、海里と柊一の愛の巣を覗いてやろう。
まだカーテンが閉められており、薄暗い部屋だった。
ははん、お姫様の安眠をガードしていたってわけか。
ベッドでは眠る柊一は、しっかりパジャマを着てすやすやと眠っている。
ふぅむ……後処理もばっちり海里にしてもらったってわけか。抱き潰され乱れ果てた柊一の姿を拝めるかと思ったが、拍子抜けだ。
彼は実に品行方正に眠っていた。深い情事の後だなんて感じない程に。
それにしても昨夜、柊一は桂人の淹れた真っ黒な紅茶を飲み干していた。あの濃さは半端でなかったから、なかなか眠れなかったはずなのに。
ルイが紅茶のセッテッィングをしている間に、海里を突っついてみた。
「昨日はお盛んだったようだな。柊一を朝まで寝かさなかったのか」
「何、言って? 柊一なら俺が戻るまで珍しく起きていてくれたが、一度であっという間に眠ってしまったぞ。魔法が解けるのが早くて、物足りなかったよ」
海里は悔しそうに苦笑した。
「えー?」
柊一の睡魔があの紅茶に勝つなんて……こっちも拍子抜けだ。
今度は瑠衣の傍に近寄って、確認した。
「瑠衣、さっき海里を見て、どうして頬を染めた? 」
「え……何、言って?」
「妬いてる。海里の裸がそんなに良かったのか」
真顔で訴えると、瑠衣がぽかんとした表情でこちらを見た。
「くすっ違うよ。その……海里の首筋にはっきりキスマークがついていたので、僕が照れ臭くなったんだ。あの幼かった柊一さまが……そのようなことをされたのかと思うと、しみじみとね」
「なんだ、そうだったのか」
瑠衣はそのまま俺の首をスッと撫でて、囁いた。
「うん……ここに僕が後で君にあげようと思ったご褒美だったから、先を越されたなって……残念だった」
「何だって! 残念なんかじゃない。今すぐつけてくれ!」
思わずネクタイをシュッと外して、叫んでいた!
「おいおい……俺の部屋まで来て、イチャイチャすんな」
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