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その後の日々 『執事レッスン』 15
「テツさん、勉強って、案外楽しいんだな。明日また瑠衣さんに教えてもらうのが、待ち遠しいよ」
俺に組み敷かれ、うっすらと素肌に汗を浮かべた桂人が、俺を熱い眼差しで見上げてきた。
頬は上気し、汗ばんだ黒髪が額にこびりついていた。
お前……随分と生気が宿る容貌になったな。
死に急ぐ投げやりな桂人は、もうここにはいない。
今は明日を迎えることを、心待ちにしている快活な青年だ。
「お前がこんなに勤勉だったなんて、知らなかった。それにこの状況で随分と余裕だな」
「んっ……」
桂人の躰の中に屹立を深く挿入したまま、腰をグッと押し進めると、繋がった部分がぐちゅりと卑猥な音を立てた。
「あっ、あう……っ」
静寂を打ち破る淫靡な音に、桂人は耳朶をサッと染めた。
まだまだ初々しい。それは当然か。ついこの間まで何も経験がなかった躰なのだから。
「こういうことするのって照れ臭いな……まだ」
「そうか。俺は気持ちいいが」
「……人と肌が触れ合うのは、まだ慣れないよ。んっ──あうっ」
桂人……お前はあの小さな社の中で、人恋しい夜を幾夜過ごしたのか。
人肌に飢え……暗闇に膝を抱え蹲っている少年の姿が、脳裏に浮かんできた。
「こんなに心地よい温度があるなんて、おれ、知らなかったから」
「あぁ人肌恋しくなったら、いつでも言え。俺が触れてやる。抱いてやる」
この温度は人と人とでしか生み出せない、絶妙な温度だから。
「じゃあ……おれは、もう一生、人肌には困らないな」
「えっ、桂人……もう一度言ってくれ」
「て、照れ臭いこと、何度も言わせんなよ! 」
頬を染めプイっと横を向いた桂人の顎を掴み、再び唇に触れていく。
愛情を知らずに大人になった桂人は、まだ心と躰の成長がちぐはぐで、危うい所がある。だが俺はそれも含んで、桂人という人間を丸ごと好きになっていた。
「テツさん、愛されるって……いい……心が太くなるような心地だ」
俺に揺さぶられながら、桂人が気持ち良さそうな様子で、はらはらと涙を零す。
「では……泣いているのは、何故だ?」
俺は武骨な男だから、繊細な感情が掴めない。だからこんな風に言葉で真っすぐ聞いてしまう。
「それは幸せだからだ……おれを温めてくれる人がいるからだ」
桂人も素直な男だ。
聞けば、包み隠さず真っすぐに伝えてくれる。
もっと知りたい。桂人がどんな男なのか、もっと──
きっと情に脆い、優しい男なのだ。
こんなにも自分以外の誰かを愛し、知りたいと思えるなんて……
桂人と出会うために、俺は生きてきた。
桂人をこの躰で抱く度に、そう確信している。
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