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その後の日々 『別れと出発の時』 3
海里さんが僕の胸に顔を埋め、静かに泣いた。
いつも冷静沈着な彼の、隠し通せない悲しみが、ひしひしと伝わってくる。
こんな時に不謹慎かもしれないが、嬉しかった。
いつも僕を守ってくれるこの優しい人の、心の襞に触れられた気がした。
外見も内面も秀でた彼も、僕と同じ生身の人間なのだ。日々直面する出来事に笑って泣いて、感情を揺さぶる繊細な存在だ。
僕は大切なことを、忘れそうになっていた。
よかった……彼がこんな一面を見せてくれて。
僕たちは、更に広い海に航海に出る。
「海里さん、お父様との柵については、僕は詳しく知りません。でも……どんな人でも、あなたという人間をこの世に産み出してくだった方なので、僕は敬意を払います。よろしければ……僕も葬儀に参列させてください」
海里さんは意外そうな表情を浮かべた。
「柊一……君が来てくれるのか」
「はい。あなたは僕の大切な人です。あなたが大切に想うものは、僕にとっても同じです」
「参ったな。今日の柊一は、とても頼りになる」
「たまには、こんな日があっても、こんな関係があっても……いいと思います」
「あぁ君は時々突然大人っぽくなるな。うん、俺の心も落ち着いてきたよ。やっぱり俺の相手は、君しか務まらないよ」
「そう言っていただけて、嬉しいです」
僕は背伸びして、自分の唇を重ねた。
哀悼の意を込めて、そして海里さんへの愛を込めて。
***
「瑠衣、準備は出来たか」
「……海里、お願いがあるんだ」
「何だ? 」
白いシャツに黒いネクタイを締めたノーブルな瑠衣が、手に何か持っている。
「あの……これを付けたくて 」
「ん? あぁピアスか」
「穴を開けてくれないか? 君は医師だし、心得があるのでは? 」
「あぁ出来るよ。屋敷の医務室に行くか」
「ありがとう」
「ふぅんファーストピアスか……でも、片方しかないが。そうか、これはアーサーがつけている片割れか」
ルビーのピアスは、ふたりにとってよほど大切な品なのだろう。
「ん……そう。ピアスのような装飾品を見える場所につけるのは、執事としてあるまじきことだから、なかなか決心がつかなくてね。英国に戻ってからも穴を開けるのを躊躇っていた。でも……もう後任も見つかったから、いいかなと。それに森宮の屋敷に再び足を踏み入れるのは、海里が一緒でも、少し怖くて……だからこれをつけたいんだ」
瑠衣の覚悟が、身に沁みた。
あとがき(不要な方はスルーで)
****
今日の後半は『ランドマーク』から、繋がっています。
もはやこの『まるでおとぎ話』本編&番外編の完結後のは『その後の話』(余談)は、『ランドマーク』の、『その後』でもありますね。
おとぎ話シリーズは……
『ランドマーク』→『まるでおとぎ話』本編→番外編『鎮守の森』→『まるでおとぎ話』の余談・その後の日々
という時系列になっております。
いつも私の創作ワールドを、巡回して下さって感謝しております。リアクションもありがとうございます。励みになっています。
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