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その後の日々 『別れと出発の時』 15
厳かな気分で、告別式の朝を迎えていた。
「瑠衣、支度は調ったか」
「うん。行こうか」
「そうだな」
瑠衣と俺は喪主側として準備があるため、一足先に家を出る。
玄関先で柊一を振り返ると……彼は穏やかな表情を浮かべていた。
「柊一、じゃあ行ってくるよ。君は後から皆と参列してくれ。社葬なので凄い人だろうから、ろくに挨拶出来ないかもしれないが」
「はい、それは理解しているので、大丈夫です。海里さんも頑張って下さい」
それにしても、まだ腫れぼったい眼をしているな。そっと彼の目元に触れると、途端に熱を持ったように赤くなった。
「あ、あの……今は駄目です」
「昨日の君があまりに可愛くて……ごめんな」
浴室の中で抱くのは初めてだった。堅いタイルに押し付けて無理をさせたし、内部に湯が入るのを戸惑う君を深く貫いて……昨夜の俺は自分でもどうかしていたのではと思う程、激しく君を抱いた。
どんな俺でも受け止める……その覚悟で、君は躰を開いてくれた。
躰で俺を抱きしめ、心で俺を慰めてくれた。
父の死への複雑な心のうち、言葉では説明の出来ない想いを、君が全部受け止めてくれたから、今朝は憑き物が落ちたようにすっきりとした気持ちで、告別式に迎えられるのだ。
「ありがとう。君のお陰で、助かった」
「あ……嬉しいです。お役に立てて嬉しいです」
「ふっ、君は相変わらず謙虚だな。役に立つとかではなく、俺にとっては、なくてはならない、かけがえのない存在なんだよ」
瑠衣が俺たちの会話を少し恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに聞いていた。だからなのか……車の中で瑠衣が、唐突に感慨深い様子で語り出した。
「さっきは海里と柊一さまの会話があまりに素敵で、うっとりしたよ。二人の愛は対等だね。二人とも幸せでいてくれて、ありがとう」
「瑠衣とアーサーだって同じだろう。いや、アーサーの方がちょっと重たいか」
「くすっ、そうだね。アーサーはたまに想定外の行動に出るんだ。昨日だって……」
「何かあったのか」
「帰宅したら、衣裳部屋が衣類で溢れていた」
おっと……その溜め息には、甘さがたっぷり混じっているぞ。
さてはアーサーの奴、日本でも英国の屋敷のような振る舞いを? そのために衣裳を買ったのか。相変わらず面白い奴だ。そして本当に昔から瑠衣に一途だ。
「衣裳部屋か。確かに、あれは高揚するな」
「は? か、海里まで何を言って! 」
瑠衣はポンッと火が付いたように、頬を染めていた。
おいおい、そんな反応されるとバレバレだぞと、突っ込みたくなったが、そんなことを言うと、また瑠衣に冷ややかに怒られそうなのでやめておいた。
それにしても……父の告別式に向かう車の中で、愛し、愛され自慢をしている息子って、どうかと思うが……どこか小気味よかった。
父さん、見ているか。
俺たちは、あなたには信じられない程、一途な愛を貫いている。
愛して、愛され、求めて、求められ……対等にやっている。あなたにもらった命は、ちゃんと生かしている。たとえ後世に血は繋げなくても、精一杯、最期の時まで生きていく覚悟だ。
瑠衣も同じ気持ちなのか、青空を見つめる横顔は、どこまでも凛々しかった。
彼もまた、いい表情をするようになった。
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