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その後の日々 『別れと出発の時』 16
「兄貴、おはよう」
「あぁ、海里よく眠れたようだな」
「えぇ」
「瑠衣、よく来てくれたな」
「……はい。僕は後方で手伝わせていただきますので……」
瑠衣が裏方へと歩き出すと、兄貴が呼び止めた。
「瑠衣……お前も父さんの息子だ。今日は親族の席に座ってくれ」
「そんな、僕なんかが」
瑠衣が戸惑った表情で俺を見つめてきたが、俺も兄貴の意見に賛成なので、親族の席に座らせた。
「海里……落ち着かないよ。こんなの……」
「もう時代も変わった。現当主が認めているんだ。いつまでも遠慮するな。それより俺たちの父親との別れに徹しよう」
「……ありがとう」
瑠衣にとっては、生まれてすぐ切り離された森宮家だったが、今は……兄も俺も瑠衣を弟だと認めている。だからもういいではないか。外野に五月蠅いことは言わせない。兄弟が仲違いする方が、見苦しい。
厳かにしめやかに……葬儀は進行し、参列者のお焼香に入った。
社葬なので、昨日の通夜も今日の葬儀も大勢の参列者だった。
五人ずつ前に出てお焼香するので、俺や瑠衣は家を出た者として末席に座り、顔もよく知らない相手に頭を下げ続けていた。
こんな風に森宮の家に関わるのも今日が最後だろう。そんな思いでいると、
次の一列は圧巻だった。
俺の柊一の喪服姿は、上品で清楚で洗練されていた。仕草も流石だ……更に中学の制服姿の雪也くんが兄に寄り添うように立っていた。
君も来てくれたのか、嬉しいよ。
その隣にはアーサー。こちらも本当にさまになる。金髪碧眼の彼の、貴族のブラックフォーマルは周りを蹴落とす勢いだ。
そしてテツと桂人。彼らは本当にお似合いだ。ふたりの飾らない心が滲み出る喪服姿に和んだ。桂人は髪も整え、瑠衣を彷彿させる……彼はきっといい執事になるだろう。
「海里……僕たちの仲間が来てくれたね」
「あぁ、心強いな。勢揃いすると圧巻だ」
「うん、本当にそう思うよ」
告別式は無事終わり、次は納棺だ。
亡骸に添えるのは、白い花ばかりだった。
最後に親族代表で喪主の兄が挨拶をする。
「故人は雪国が好きで、白い花を好んでおりました。これは我が家の庭に咲いた白い曼珠沙華です。最後に、これを餞に……」
その花を見ると思い出す。
瑠衣の母親が越えていったあの光景を……
「海里、白い曼珠沙華が、よく見たら白というより象牙色に近いね」
「そうだな。瑠衣の肌色と近いな」
「そう……花言葉を知っている?」
「いや」
「『また逢う日まで』だよ」
「そうか……」
『出棺です』
やがて霊柩車のクラクションが大きく鳴った。まるで参列者に向けて、故人から……最期の感謝の気持ちを表現しているような音色に聞こえた。
兄貴が瑠衣に近づいて来る。
「ありがとう。これから斎場に移動するよ。瑠衣も一緒に行こう」
「いえ、ここから先はもう……ここまでで充分です」
「そうか……無理はするな」
「お……兄さん」
「あ、あぁ」
「僕にも見送らせてくれて、ありがとうございました」
瑠衣が初めて、生まれて初めて、雄一郎さんとではなく、お兄さんと言った。
「瑠衣、本当にありがとう」
兄貴は、場に不釣り合いな笑みを浮かべた。
「どうか……兄と思って欲しい。これからも……」
「はい。そうします。そうさせて下さい」
二人の間にはもう蟠りはない。
これは……父の死が結び付けてくれた大切な兄弟の縁だ。
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